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番外・過去拍手ほか書庫

「……言って?」

甘えた声が自分で気持ち悪くてももういい。

「好きだよ」

抱き締めて、頭を撫でる手が幸せにさせる。

「俺も……好き」
「可愛いなぁ、千草は」

しみじみといった風に笑って言うのがからかわれた様でむくれたくなるけれど、今は黙って甘えたかった。

「見たいって言われた、って言ったのに」

顔を上げて、意味を考える。
理解してくると沸々と怒りが込み上げてきた。

「……帰る!」

立ち上がるとすかさず手を取られた。
最初に説明された時に気がつくべきだったのだが、動揺していてそれどころではなかったのだ。
ただ、京が本気で怒ったんじゃなくてよかったと安心した。
嫌われていなかった事に心底安心したから。

京の予想通りの行動に出てしまっているが、今はそれを気にしている余裕は無い。

「そうやってからかって遊んで、楽しいか!?俺は見せ物じゃない!」
「わかってる。……座って」

握られた手を長い指が撫で、真剣な眼差しと声色がそれ以上を黙らせた。
引き寄せられて、膝の上に横向きに座らされた。

「悔しいんだ。どうして近くに居るのに、自分から線を引くような真似をするんだ。仲間になれる筈だろ?」

独白の様なそれを聞いてハッとした。

「千草をもっと安心させたい。きっと今よりもっと、一人じゃないって思える筈だから」

言葉にならない想いで胸がいっぱいになる。
抱き寄せられて、背中に温かい手のひらを感じる。
小さく謝ると、京は首を振って髪に触れた。

「帰ろう、な?」

頬に添えられた手に触れ、何処かで見ている筈の皆はどうするのか聞くと、どうでもいいといった具合で短く切り捨てた。

「知らん。置いてけ」

言うと、気にする素振りも見せずにさっさと腕を引いて行く。

ところで何処から見られていたのか。
それは会話が聞かれないように京が条件を出した為、皆二階の廊下に居たそうだ。
それなら距離もあってこちらとしては助かるが、そんなにしてまでこんなデレデレした姿を見たいっていうのだろうか。

「そんなの何が楽しいんだ」
「可愛い千草が見たいんだろ。でも、それは俺だけのもんだからな」

フッと口の端を上げて笑う。
恥ずかしい事を言うなと言ってやりたかったけれど、ここはぐっと飲み込んだ。

皆を黙らせる為には要求を聞き入れるしかなかったのかもしれないが、ただでは聞かないのが京らしい。

京の手を強く握ると、温もりが強く握り返した。

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あきゅろす。
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