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短篇
14
レオ様から贈られたレターセットで、会えない間に手紙のやりとりをした。
そこで両親への挨拶の日取りも決められた。

当日が来ると、ヘレンは時間よりずっと早く家の前に立って待っていた。
馬車が来てその姿が現れるまで一歩も動かずに。

彼が現れると花が綻ぶように笑みを咲かせ、真っ直ぐ走り寄る。
そんなヘレンを認めれば、領主様の顔にもぱっと笑みが溢れる。

「ヘレン!」

迷い無く広げた腕でヘレンを抱きとめ、ぎゅっと抱き締めて頬にキスをする。

今のヘレンの振る舞いを見ていたら、叔父ならずとも上流社会の人間は眉をひそめるところだ。
しかし領主様の従者は逆で、その光景を好意的に受け止めた。
当主が叔父の攻勢に耐え、結婚の圧力に耐え、恋に悩み苦しんできたのを知っているからだ。
ヘレンと居る時の姿が、家族を亡くして以来最も幸せそうだと知っているからだ。
そして何より目の前の二人が、会いたかったと物語っているからだ。


「よかった。夢ではなくて」

再び会えた安堵感から独り言ちたヘレンの髪を撫で、領主様が優しく微笑む。
ヘレンの両親もまた、そこに二人の愛を見た。


「早速で申し訳ないんですが、レオ様。うかがいたいことがあって。いらしたばかりなのにごめんなさい」
「あぁ、いいよ。なぁに?」

待ち遠しかったのが見えて、領主様はにこにこと楽しそうに笑いながら赤い髪に触れる。

「私もレオ様のご両親にご挨拶させていただけますか?」

瞬間。
領主様から笑みがすっと消え、手が止まる。

従者の間にもぴりっと張り詰めた空気が走る。
一同は戸惑い、言葉が遅れた。

「やっぱり私では、お墓にお参りすることは許されないんでしょうか……」

皆の顔色を見て、ヘレンはしゅんと項垂れた。
浮かれて図々しい申し出をしてしまったと反省する。

「すみません。出過ぎたことを」

最後まで言いきる前に、ヘレンはすっぽりと温もりに包まれていた。

「いいよ。行こう」

無理を言ってしまって困らせたのではないかと不安になり、上目でおずおずと窺う。

「誰にも口出しはさせない。きっと両親も喜んでくれる。こんなに素敵な花嫁が来てくれるんだから」

そこには弾ける笑顔があった。
偽りのない、溢れる喜びが。
ヘレンはホッとして頬をゆるめた。


後日、領主家の一族を集めてヘレンを婚約者として紹介する機会がもうけられた。
口出しはさせないと言った通り、お墓参りはその前にしてしまった。

ヘレンは緊張していたが、墓前でいざ口を開いたら感極まって、何故かぼろぼろと泣いてしまった。

「お会いしたかったぁ…!」

考えてなかった言葉が、不意に口をついて出た。
同時にそれがこの涙の理由なのだと悟り、更に涙が出た。

無言でぎゅっと抱き締めてくれたレオ様は震えていた。
そして涙をこらえる気配がまた泣けた。

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