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短篇
13
帰宅したヘレンの手に箱があるのを見ると、両親は顔を見合わせた。
お返しすると言っていたのと違うのもそうだが、ヘレンが恥ずかしそうにうつむいていることで展開を察したのだ。

「おかえりなさい、ヘレン」
「おかえり、ヘレン。楽しかったかい?」

頬を赤らめるのを見て、確信に変わる。

「お話が、あるの……」

穏やかな笑顔で頷き、父が座るように促した。


両親の理解と応援を得た後、農園へ行ったヘレンはカフェのおばさんからある話を聞かされた。
おばさんはこの二年、領主様がヘレンに想いを寄せてきたことを見てきたのだ。
カフェの窓から赤毛の少女を見つけ、あれは誰?とたずねたその時から。
おばさんはその時の、ヘレンを眺める領主様のやわらかな笑みを忘れられない。

間をおいての二度目の訪問でも、領主様はカフェの窓際に座り長い時間外を眺めていた。
やはり、その表情が彼の想いを物語っていた。

お忍びでの訪問が何度か続いた後、おばさんは領主様から笑みが消えていることに気付いた。
沈んだ姿は初めてだったので、声をかけずにいられなかった。

『こうして彼女を見ていることは、僕の癒しで、楽しみなんだ。だけど最近そこに苦痛が伴うようになった』

ヘレンが忘れられなくて、もう一度見に行きたくなった。
見ている内に想いが増して、ハッキリ彼女が好きだと思った。
そして好きになるほどに、現実がちらついて苦しくなる。

『彼女は禁断の果実だ』

彼女は手に入らない。
手をのばしてはならない。
彼女を手元に引きずりこんで、傷付けることになってはいけない。
わかっているのに、領主様にとってヘレンはもう離れがたいオアシスになっていた。

彼女は癒しでありながら、苦しみも孕んでいた。

ヘレンとのニアミスがあったのは、叔父からのあたりがきつくなり、遂に花嫁選びから逃げられなくなった頃だ。
おばさんの結婚記念日にヘレンが手作りのクッキーを渡しに来た時だ。
おばさんは迷わずに、二つあったクッキーの袋の片方を領主様へ差し上げた。

それから「L」のお方とのやりとりになったのだ。

りんごは、この恋の象徴だった。
ヘレンにとっても、彼にとっても。

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あきゅろす。
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