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短篇
12
「ヘレン。君は素晴らしい人だ」

レオはヘレンの頬を撫でて言った。

「僕達が一緒に居ればいい 。その幸せがあれば、他に何が起こったって些細な事だね。二人で居ることが重要だ」

同じ思いを確認しあい、ヘレンは幸せな気持ちで頷けた。
例え何を失っても、二人ならば構わない。

「さ、立って。いつまでも床に座ってると、君の体が冷えないか心配だ」

ほがらかに笑う彼が戻る。
ヘレンはそんな人柄に惹かれたのだ。
その調子でさらりと言う。

「君のご両親にご挨拶に行かなきゃね」

一緒に生きていくために現実的な段階を踏む。
覚悟はしても、具体的なステップまで考えが至ってなかったから急に緊張を覚えた。
表情さえ変わらなかったものの、ぱちぱちと繰り返す瞬きと纏う空気の変化をレオは逃さない。
手を差し伸べてヘレンを立たせると、握り締めたまま勇気づける。

「こわくないよ。僕が居る」

それはヘレンにとって頼もしい魔法だった。
ヘレンの顔が綻ぶと、レオにも安堵が広がる。

ヘレンの家族は戸惑うだろうし心配もするだろうが、これがヘレンの幸せだと理解して応援してくれるだろうとヘレンは信じている。
ヘレンには、家族の愛という信頼できる裏付けがある。
しかしレオ様は早くに両親を亡くして一人なのだ。
楽しげに振る舞っているのを見ると忘れてしまいそうになるが。
それに気付いたヘレンは、率直に気持ちを告げた。

「私もレオ様にとって、信頼し安心できる愛でありたいです」
「君にとって僕はもう“信頼し安心できる愛”なのかな?」

真面目に気持ちを伝えたヘレンに対し、レオはおどけて言う。
そんな態度を怒るなんて発想はヘレンにはなく、だから拗ねたりなじったりなんてこともなかった。
だからといってレオが一番に想像した“照れる”という反応でもない。

何故そんなことを聞くのかというように不思議そうに首を傾げ、「もちろんです」と真面目に返すものだから、レオはつい吹き出してしまった。

「君はとっても愛らしい人だ」

笑われる意味がわからなくて、ヘレンはおろおろと目を泳がせる。
それが本心からの言葉だったと物語り、尚更愛しさを煽る。

「僕にとっても、もちろん君は信頼できる、安心できる大切な愛だ。僕のりんご」

清麗な人を抱き締める。
そんな人に誠実でなければならないと、レオは改めて思った。

「実はね……。君を酷い態度で傷付けたのを目の当たりにしたらカッときちゃって、叔父に向かって思わず怒鳴ってしまってね。いつも冷静に接していたから面食らっていたけど」

それにはヘレンも面食らった。

「相手が感情的になっている時はこちらもそうなってはいけないと常に意識してたんだけど、冷静さを保てなかった。だから……ごめん。言い訳はやめよう。打ち明けるよ。実は、叔父に“ヘレンと一緒になれないなら結婚はしない”と言った。つまり、認めないなら直系の血を途絶えさせる、とね」

ヘレンは息を呑み、言葉を失った。

「さすがに絶句してたよ。やっぱり、直系の男子が当主であることを重要視しているんだ。これで認めてもらえる可能性が高まったと思うけど、その分君への風当たりが強くなりはしないかって……。君があんまり心が綺麗だから、何だか心苦しくなってきて。懺悔するよ」
「あの、あの…っ」

農民のヘレンが領主様と一緒になれば風当たりが強いのは当然だとヘレンは考えている。
それははじめから想定できたことで、もう覚悟したことだ。

「懺悔だなんて……。私よりも、レオ様が……」
「ありがとう。そうだね。もっと冷静に話し合うべきだった。これからは君が居るんだから。責任ある身だ。気を付けるよ。君のために」

伴侶としての責任が生じる。
それはヘレンにも言えることだ。
領主様に恥をかかせないよう、これから努力せねばならない。

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