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短篇

領主様がくれた言葉も、笑顔も、偽りだったとは思えない。
そう思いたくないと望み、悲しくなってしまうほど、すっかり勘違いしていた。

情けない。
みじめだった。

侮蔑に大きく傷付いて、夢が覚めたことに更に大きく傷付いた。
気付けばひくりとしゃくりあげ、涙が溢れていた。

叔父様とのやり取りが止んだのは、領主様がハッとして泣いているヘレンに気をとられたからだ。
領主様が口を開いたのを察して、何か言われる前にヘレンが行動を起こした。

「申し訳ございません」

深々と頭を下げたヘレンの上に、ヘレンの名を呼ぶ領主様の声が降る。
ぎゅっと眉根を寄せ、目を伏せて悲しみに耐える。

「皆様にご迷惑をおかけしました」

ここではヘレンの存在は悪だ。
楽園の果実どころか同じ人間でもない。

「もちろんこのドレスはお返しします。私には分不相応な物ですから」

領主様がもう一度ヘレンを呼び、顔を上げさせた。
が、ぼろぼろと泣いているのを見ると言葉を失った。

「お役に立てず、すみません」

皮肉ではなく、素直な謝罪だ。
せめて。
ほんの少しでも結婚を迫る叔父様の圧力から逃れられる猶予ができたのなら。

「でも、私にはとても光栄なことでした」
「ヘレン」

のばされた手を避け、自ら傷をえぐる。

「ヘレン、待って!」

静止を振り切って部屋をあとにする。
着替えた部屋へ走って戻る。

早く自分の服に着替えて出て行かねばならないのに、一人になったら悲しみが襲ってとても立ってはいられなかった。
膝からくずおれて泣きじゃくる。

自分を、酷く図々しいと思う。
立場をわきまえている振りをして、本当は彼の特別でありたいと望んでいたのだ。
けれど夢は終わった。
楽園には居られない。
そしてもう二度と足を踏み入れることもない。


「ヘレン!」

領主様の声と共に、焦ったノックが何度も鳴る。

「ヘレン!居るんだろう?話を聞いてほしい」

ヘレンは返事どころか、身動きもできず息を潜めていた。

「ヘレン!どうか…!ここを開けてもいい?開けるよ?」

もう会わせる顔がない。
会うべきでもないとわかっているが、言葉を見つける前にドアが開いてしまった。

座り込んで泣いているヘレンを見ると、領主様はつらそうに眉を寄せた。

「あぁ、ヘレン……」

悲しげにもれた声。
それを聞くと、愚かな希望を抱いてしまう。

「そばへ行ってもいいかな?」

ヘレンは思わず首を振った。

「……そう。じゃあ、少しだけ。君には触れないから、ね?」

咄嗟に拒んでしまった後で、もう触れないという言葉が酷く悲しく響いて、また涙が溢れた。
もう、彼のあの楽しげで優しい笑顔を見ることもないのだ。

少し離れた位置に領主様も同じ様に座り込んで、静かに口を開いた。

「すまなかった。君を傷付けるつもりはなかった。と言っても、信じてもらえるかわからないけど……。だけど、君にすべてを正直に打ち明けるよ。最初からそうあるべきだった。ヘレン、僕の目を見て?」

言われると、やはり誘惑には勝てなかった。
涙が溜まって視界がぼやけているので目をこする。

領主様は長く息を吐き出してから話しはじめた。

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あきゅろす。
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