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短篇
ーanotherー
家業の牧場経営と祖父の代からはじめたレストランが順調で、ブロスフェルトといえば地元では知られた家だ。
ロランドは経営の勉強をした後、後継者として少しずつ家業を手伝いはじめていた。
知的で穏やかであり、年齢の割に落ち着いて堂々としている。
顔立ちは優しく、振る舞いには品がある。

ロランドが暮らすのは古い時代からある立派な屋敷で、牧場がある広大な敷地内にある。
町からは遠く、そばには民家がない。
ゆったりと時間が流れる、平穏な生活がそこにはあった。
そんな中に訪れたのがエミリアだ。

温度が感じられないような青白い顔をした少女は、友人の腕の中でぐったりと意識を失っていた。
いつも落ち着いていて動じない男が慌てているのを目の当たりにしたら、これは尋常じゃない事態だと理解した。
そんな状況であるにもかかわらず、ロランドは一瞬この少女に目をひかれた。

スレンダーというには細過ぎる、痛々しいほどの姿であったが、それでも可憐な顔立ちであることは認識できた。
それだけに、尚更彼女が死に瀕している事実に胸が痛んだ。

屋敷には従業員や使用人達のためにも医務室があり、常勤のスタッフも居る。
しかし少女を運び込んだ友人は患者を手放そうとしなかった。
女性陣に言い寄られるのを嫌ってこの家にあまり寄りつかなかったのに、エミリアが来た途端、頻繁に訪れるようになったのだ。
睡眠時間をけずってでも夜な夜な通ってくる彼の情熱は、発見者の責任感や医師の使命感からだけではないと気付かないわけにはいかなかった。
彼女に対する友人の想いには敵わないと、はじめからずっとわかっていた。
だから。
ほのかに芽吹いた彼女への淡い感情はどちらにも悟られぬようつとめた。

縁とか、責任だとか、親切心なんて建前を繕っているのはロランドの方だ。
純粋で熱心な友人の想いは尊く、彼女が惹かれるのは自然の成り行きだと思えた。
それでもロランドは彼女を支えながら、そばに居ることで些細な幸せを感じていた。
それは切なく苦しいものでもあったが、それでも。それを喜びとできた。
二人の幸せを、自らの喜びとすることさえ。
時が経つにつれ、それがすべてになっていくのだろう。
二人の出逢いを知り、馴れ初めを知る友人として、晴れやかな気持ちで笑いながら、懐かしく話すこともできるのかもしれない。
早くそうなれることを、ロランドは望んでいる。
彼女がこの家へ訪れてくれるのを待つのは、今のままでは少しだけ苦しいから。

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あきゅろす。
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