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短篇
16
「泣かなくともいい、リリィ。風の精霊殿に伺ったのだ。彼のお方のお力のもとで、こうして真実の絆が証明されたのだ。お前の目に再びうつることができたのだから」

だから……と告げられた内容に、リリィはぼっと赤面した。
そこまで考えが及んでいなかったので、動揺が隠せない。

『だから、私達は契ることができる。お前ほど美しい魂の持ち主であれば、それを重ねればお前もいずれ我々と近い力を持つようになれる』

リリィは、力を貸してくれた風の精霊に感謝した。

「リリィ。お前はお前として、私と共に居られるのだ」

髪を撫で、頬に触れる仕草が愛しい。

「精霊さん…っ」

どうしても胸が詰まって、想いが言葉にならない。
あぁ、だから。愛する者達はこうして触れ合うのだとリリィは知った。

「約束だったな。屋敷を用意すると。私達の新居となるものだ。どのようなものがいいか、考えておいたか?」
「おうち……」

もともとこれが!というこだわりも無かったが、それどころではなくなってしまったのですっかり忘れていた。
それを察した彼は、初めてリリィの前で微笑んだ。

「今なら窓の外に景色が見られる場所をつくってやれる。こちらの世界と繋がる扉もつくってやれるし、なんならこちらにも屋敷をつくろう。あのあずまやはどちらにつくる?リリィ?」

彼は約束を覚えていてくれたし、一度口にしただけの些細な言葉も、大切な思い出もその胸に仕舞っておいてくれた。
その愛情は感動的だ。

「あなたの愛の洪水で、私は胸がいっぱいで言葉になりません」
「リリィ……」

触れる指の先からも、溢れる愛情が感じられる。

「精霊さん。あなたのことをもっと私に教えてください。あなたが私のすべてを愛してくれるように、私もそのすべてを愛したい。この幸せを、あなたにもあげたいのです」
「ああ、リリィ。お前を得て、その愛までをも手に入れられたことで幸せだと思ったが。それ以上の幸せを私にくれるというのか。愛しい者よ。私だけの輝ける者」

そう言うと突然横抱きにされ、ハッと息を呑む。
とっさに彼の首に腕をまわしてしまってから恥ずかしくなっても、バランスを崩して落ちてしまいかねないので放すわけにいかない。
その様子を見てまた笑った彼に、リリィはつい見惚れてしまう。

「さぁ、行こう」
「どちらへ?」
「まずは風の精霊殿へのご挨拶に向かわねば」

感謝を述べたい気持ちがあったので、リリィは喜んでにっこりと微笑んだ。

「エメル。お前もだ」

竜の姿に戻っていたエメルが飛んできて、ぶつぶつと文句を言い始める。

「これまでお前のもとで働いていたのはお姫様のためなんだからな!お前に使われてるのではないのだから、きやすくその名を呼んで命令するな!お姫様がくださった大切な名なのだぞ!」

エメルは一回り大きくなったように見えた。

「お姫様。ワタクシは今度こそ、身の回りのお世話をしてみせますよ!そのために人の姿での振る舞いを覚えたのですから!」
「ありがとう、エメル」

嬉しそうにクルルッとのどを鳴らしたかと思えば、彼には口を開けてカッと威嚇する。
そんな状態でよくこれまで過ごしてこれたと心配になるが、これでなかなかいい関係なのかもしれない。
はじめは本当に嫌っていたのであろうが、目的を同じにした、いわば仲間なのだから。
それなりに親しみを覚えたかもしれない。
リリィは、あとでじっくり聞いてみようと思った。

ゆっくりと浮かび上がり、視線の位置が高くなる。
落とさないようダイヤモンドをしっかり握って、しがみつく。

「私もいつか、飛べるようになるのですか?」

くすっと笑って冗談で言うと、彼は真面目な顔をして言った。

「例えできるのだとしても、私はあまりすすめられない」
「危険ですか?」
「いや。私はお前をこうして抱いていく方がいい。だが、お前がどうしてもと望むのならば……」

口ではそう言いながらも、どうも納得していないように見える。
察して、リリィはふふっと笑った。

「私も、こうして精霊さんの腕の中に居る方がずっと安心です」

それにいくら神秘的な力が身につこうとも、飛べるようになるとは到底思えない。
可愛らしく笑うリリィにつられ、黒い宝石の精霊もふっと微笑んだ。

「リリィ。お前はとても美しい」

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あきゅろす。
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