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短篇

名産の花々が溢れる花の国に、リリアンは生まれた。
この国には、子供が生まれると魔除けの人形を飾る風習がある。
可愛い我が子を悪魔にさらわれないように、身代わりとなる人形をそばに置くのだ。
裕福で高貴な家に生まれたリリアンは、年がはなれて生まれた末の姫君ということもあり、お金をかけて精巧な人形がつくられた。
その甲斐あって、リリアンは無事に美しい少女へと成長した。

白い肌は人形の様に滑らかで、薄紅色にほんのり色付いた唇は慎ましやかに結ばれている。
ふっくりとした頬は幼さを滲ませる。
くりっとした大きな目も、僅かな陰りも無くアクアマリンの様に輝いていた。
細くやわらかなハニーブロンドは、毛先にいくにしたがってゆるやかなウェーブから次第にくるくると癖が強くなる。
おしとやかで上品なレディと言えた。が、まだ子供らしい無邪気さが抜けきっていない。

「リリィ」

それは、若々しい張りのある低い声だった。
そんなに離れていないところから見知った人間が呼んだような調子で。然り気無く。
それに“リリィ”は親しい者が呼ぶリリアンの愛称であったから、微笑を浮かべてそちらへ振り返った。

けれど。
そこに人の居た気配すらなかった。

あざやかな緑の芝と、木々。
その向こうにはリリアンの暮らす城が見えるだけだ。

あれ?と。
きょろきょろ周囲を見回すが、高台にある城の裏手のあずまやにリリアン一人しかいない。
迎えに来た兄の悪戯で、リリィの反応を何処かで面白がって見ているのかもしれない。
ただそれにしては、一番近い隠れられそうな木々でも声をかけられた場所を考えるとどんなに急いだって振り向くスピードには敵いそうにない。
それに、リリィを呼んだ声は兄のものではなかった。
より低く、硬質な。

確かにそこからしたはずなのに、姿が無い。
まるで悪魔か幽霊にでも呼ばれた様な……。
声を思い返すと、背筋が震えた。

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あきゅろす。
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