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短篇
18
その扉の前にその人が立つのは日常的な光景だ。
そうなってから三年が経ち、四年になろうとしている。
姫と彼がよく微笑み合うようになってから、ここでも変化したことがある。

そっと窺うように扉が開くと、可憐な顔がちらっと覗く。
それに気付いた彼は振り向き、優しく微笑みかけるのだ。
そしていつも、声をかけるのは騎士の方からだった。

「どうされました?」
「あの……」

か細い声が小さくなって消える。
ん?と、アルトリオは身を屈めてエーファ姫に耳を傾ける。
姫の“お願い”を聞いたアルトリオはふっと笑った。

「わかりました」

頷いて承知すると、アルトリオは他の騎士へ目配せし、扉の前を譲る。
大きく開いた扉の向こうには、何着ものドレスが広げられてあった。

「それで、どちらへお出掛けになりたいのです?」

アルトリオは入室するとそれを眺め、姫へたずねた。

「蝶を見に行きたいの」
「昨夜からずーっと迷ってらしたんですよ。ですからもう選んでいただいたら、っておすすめしたんです」

そう言って楽しそうにくすくす笑う侍女が扉を閉める間際、照れる姫の声が外へもれ聞こえた。

「だって、約束してたんだもの。お花の見頃がようやく来たの」

閉まった扉の前に立つ騎士は、なるほど。と、笑みを浮かべた。
寒い頃にした約束を、姫はとても心待ちにしていたのだ。
それで着ていくドレスに悩み、アルトリオに選んでもらうことになったようだ。


白い清楚なドレスで馬車から現れた姫の手を騎士がとる。
シンプルだが、胸元の上品なレースとフリルが可憐で優美なエーファ姫によく似合っている。
一歩踏み出そうとした姫はスカートの裾を踏んでいたらしく、ぐらりと前のめりに倒れた。
あっと声をあげる間も無く、それを支えるのはアルトリオだ。
外で引きずるほど長いドレスは動きにくいであろうと気遣って選んだつもりが、あまり意味がなかったかもしれない。
アルトリオは自嘲をもらしたが、エーファ姫は自分が笑われたように見えて頬を赤らめた。

「お気をつけて」
「ありがとう」


一輪一輪を慈しむように、エーファ姫はじっくりと眺めて歩く。
時々ひらひらと現れては消える蝶へ目を奪われながら、時間をかけて楽しんだ。

「花が咲くのを、楽しみにしていました」

ピンクがかった肌色の、細い指を胸元で組み、エーファ姫は祈るように言った。

「特にあの蝶が忘れられません。とってもすてきな思い出です」

ほんのり笑みを浮かべて語る姿は、植物園の園長だけでなく、民にとって大きな感動だった。

「ですから、もう一度ここでこうして見られてよかったです。ありがとう」

花を愛で、蝶と戯れる姫の姿。
喜びを語り、感謝を述べるその言葉は、試練を乗り越えた民への慰めであり祝福だった。

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