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短篇
魔女の独白
魔女は裁判にかけられ罰せられるのが定め。
それは中世やお伽話に登場する非現実的な世界。


一体誰が信じると言う。


町の教会の神父様は天使様のお声を聞いた事があるらしい。
とても穏やかで心の広い尊敬すべきお人で、毎日天へ感謝の祈りを欠かさず捧げる。

神父様は言った。

感謝をすれば天は光を降らせて下さる。
今日も無事過ごせた事を感謝し祈るのです。
天は全てを見通されている。

無神論者の父はそんな神父様を詐欺師だと批判する。

神なんて居ない。
何故神へ願い、神のお陰だと感謝するのか。
全て自分の実力だと思え。

目に見えるものだけが確かだ、と。

私は神父様を尊敬している。
神父様は家から出ていけと怒鳴ったりしない。
殴ったり人を罵ったりしないし、物を投げてあたったりもしない。

毎日酒を飲み、いつ機嫌が悪くなるかビクビクされはしないし、飼い犬の命を奪ったりはしない。

信じもしない神を書物の知識だけで口にし、話を合わせてやっているんだろうと嘲笑う。
曖昧で不確かなものを信じ、声を聞いた姿を見たと言う神父様や母のような人を異常だ、狂っていると言い放つ。

母には幼い頃から不思議な力があった。
近所のお婆さんの死を知らせる声が聞こえたり、予知夢を見たり毎日のように祖母と交代でうなされたりした。
その不思議な血は私へも受け継がれた。

母は言った。

人に話してはいけない。
頭がおかしいと思われるから。
狂っていると笑われるから。

誰もわかってくれる人なんて居ないんだから。

一度金縛りにあっただけの幼い私は、知ってはいけない秘密を知ってしまったような、丸で罪を犯してしまったような気持ちを抱いた。

私達はオカシイの?


それからしばらくして予知夢を見るようになった。

日常の微かなデジャヴ
危険を知らせる警告
道を指し示す助言

全て天が与えて下さる温かな光。

日常に訪れる既視感は、歩んだ時が誤ってはいないと実感させるサインになる。
まだ生きて居ていいんだという慰めになる。


その内、うなされたり半透明な人影を目にするようなった。
就寝前のお祈りの時には守って下さる天使様方のお声が聞こえ、時折見知らぬ景色も見せてくださった。
しかしそれ以外の邪悪なものの怒鳴り声や脅かそうとする姿も見聞きした。

隠れて母とそんな話をしていると、父は何の話をしているのだと激しく怒った。

母は、私達は孤独だと言った。

先に物事がわかって便利ねだとか。
嘘を吐いて注目を浴びたい、特別だと思わせたいんだろう?
力を与えられたなんて、あなた酷く自惚れているわ。

なんて台詞はもう慣れた。

何故自慢なんて出来る筈があるの?
私は私だけの力で生きてはいない。

転んで立ち上がるのを支える手に気付いているのに、感謝の言葉を欠けばその手は離れていくでしょう?
自分だけの力で立ち上がったなんて言えばそれこそ失礼になるでしょう?

"わかる"程に祈り、"わかる"程に孤独になる。
共感なんて出来やしない。

わかるわなんて手を差し出してみせても、魔女の心は共有出来ない。
いくら傍に居たって疎外感や劣等感、孤独感を抱かずに居られない。

だから愛する人々を傷つける。

何度この罪の手を伸ばし愚かな声で求めてしまっても、結局天使様以外にこんな私の姿は見えない。

わかって居るのに何度でも声を上げ手をのばしてしまう。
罪を分かち僅かにでも安心しようとする心がまた罪を生んでいる。

私は口を噤み天へ祈る。

こんな愚かな呟きも、求めてしまう微かな期待も。
私は次々罪を犯す。
そして天使様へ依存し光をこいねがう。

その行為さえ罪かも知れぬと気付きながら。


大丈夫だという声が聞こえた気がして、私はすぐにでも泣き出しそうな顔をふせる。
天使様がこうして生かしている。

だから私は今日も祈る。


せめて汚い言葉を発さぬように。
せめて負の感情を抱かぬように。

これ以上罪を犯さぬよう自戒し感謝の祈りを天へ捧げる。


魔女の話を信じる人間が居るかしら?
そうね、私は居ない事を信じてる。
だってそうして誰かがこの魔女の家に気付いてしまえば、また人を傷付け罪を重ねるだけ。

私は卑怯で腰抜けで、愚かで罪深い異常な魔女。


魔女の話を信じる人間が居るかしら?
作り話よと笑う魔女を誰が見抜く事が出来るのかしら。

孤独は定め
魔法は原罪

作り話よ。

偽言という罪をまた犯す。

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あきゅろす。
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