短篇
12
特別でも何でもないある日に、フィーネ姫からエーファ姫へドレスが贈られた。
すぐに着て見せてと言うので、エーファはその通りにした。
首まわりが大きく開いたものや、体のラインがわかるようなぴったりしたものよりも、露出が少なくふわっとした形のドレスをエーファは好んだ。
フィーネの様に華やかでスタイルがよければ似合うが、自分がそうではないと知っているからだった。
華奢で細身なエーファは子供っぽく見られる。
フィーネが贈ったものはウエストがぴったりしていたが、エーファらしく清楚で可憐なデザインだった。
似合ってると喜んだフィーネ姫は、そのままエーファ姫を庭へ誘った。
フィーネ姫は自分のことの様にどう?と自慢げに侍女達に聞き、それから騎士達にも見せびらかした。
無口でおとなしいエーファ姫と違い、明るく社交的なフィーネ姫は騎士にも気安く話し掛ける。
それにフィーネ姫付きの騎士もにこやかに答える。
そんなやり取りに慣れないエーファは「お似合いです」と言われて咄嗟に反応に困ってしまった。
戸惑いながら、ちょこんと膝を折り小さく礼を言う。
それが精一杯だ。
フィーネ姫はそんな純情可憐な妹が可愛らしくてならない。
「ねぇ。ずーっと同じ花を見ていて飽きない?」
純粋な疑問をぶつけられ、エーファは何故?と首を傾げただけで問い返した。
「私だって花がキレイだって思うけど、エーファみたいに延々飽きずに見ていられないもの。小さい頃からふしぎだったの。エーファは何を考えて見てるの?」
実際のところ、何も考えずただぼんやりと眺めている事だってある。
けれど、花を愛でる時はいつも楽しんでいる。
「想像するの」
この花が何処で、どうやって咲いたか。
何を見て、どう過ごし、どんな気持ちでそこに居るのか。
そうすればあっという間に時間が過ぎて、退屈だとは思わない。
「せっかく咲いているのだから」
花の見頃は短い。
「だから精一杯見てあげるの。たくさん楽しむの」
「エーファは花の命のことまで考えてるのね」
フィーネは驚き、感心した。
そしてひとつの心配を見つけた。
それなら花を摘んでしまうのは可哀想なの?と。
「感謝すればいいのよ。枯れるまでたくさん楽しんで、見てあげれば、きっとお花も喜ぶわ」
そうね。と納得したフィーネは、妹にもっと聞かせて!とねだった。
フィーネ姫付きの騎士は、二人の様子を見て安堵の笑みを浮かべた。
エーファ姫に起きた事やその時の姫の様子を耳にして大変胸を痛め悲しんでいたからだ。
涙するエーファ姫を目の当たりにしたアルトリオ達も、この光景を嬉しく思っていた。
二人の姫は、回廊で王妃と顔を合わせた。
「まぁ可愛い」とエーファの新しいドレス姿を褒めると、エーファはうつむいてほのかに頬を染めた。
静かに恥じらうエーファと対照的に、フィーネ姫は声を弾ませた。
「ねっ!似合うでしょ!?私がプレゼントしたのよ、お母様」
性格の違う二人の姫に、王妃は同じように微笑みかける。
「そうね。想いを寄せる方が見てもきっと素敵だと褒めてくださるわ」
エーファが息を呑んだのを見たフィーネ姫は、二人の顔をきょろきょろと見比べる。
「ひどいわ、お母様!秘密だって約束したじゃない…っ」
フィーネ姫はきゃあっと歓喜の悲鳴をあげて、両手で顔を覆ったエーファを抱き締めた。
「どうして私に教えてくれなかったのぉ!?こんな素敵なこと!」
エーファは顔を隠したまま、ふるふると頭を振った。
「だって……、言えない…っ」
確かに好きな人が居ることを人前で暴露されれば年頃の女性としてはショックなことだろう。
けれど同時にそれは騎士達にとっても衝撃的な告白だった。
驚き、動揺の中でした目配せは、互いに他言無用だと語っていた。
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