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短篇

巫女が私的に出掛けることの貴重さを承知しているので、しらせを受けた植物園では大騒ぎだった。
いざ姫が訪れてもどこかそわそわ落ち着きなく、園長は姫を前にすると緊張でがちがちになってしまった。
かしこまったぎこちない挨拶にも、姫はちょこんと膝を折ってこたえた。

いつものペースで観賞していては日が暮れるので、エーファ姫はもったいないと思いつつ案内されるまままわった。
それでも周りからすれば随分ゆっくりなのだが。
そしてあちこちに舞う蝶を眺める。

言葉少なで思いが表情にも表れない姫に、園長は楽しんでいただいているのかハラハラしていた。
そこで用意したアトラクションの出番だ。
姫の細い指先に液体が塗られる。
するとひらひらと蝶が集まりはじめ、一羽二羽と止まりだした。

はぁっと驚きと感動が入り交じった息をもらし、姫は瞳を輝かせて園長を見た。
喜んでもらえた!と感激した園長は、にっこりと笑って頷いた。

首を傾けてまじまじと指先を見つめる姫の表情は、ふわりとやわらいでほのかに笑んでいる。

「すてき」

優しくなめらかに発せられる。

「蝶とお友達になれたみたい」

姫の可憐な微笑みは、そこに居た人々を笑顔にした。

「姫様ならば、蝶の方から喜んでお友達にしてくださいと望むでしょう」

媚びへつらったご機嫌うかがいではなく、それは園長の素直な感想だった。
そしてその言葉には、その場の誰もが本心から頷ける心境だった。


報告を終えたアルトリオは、ムーティ隊長から思わぬ質問をされた。
誰か想う相手はないのか?と。

「いえ。特にいませんが?」

それにアルトリオは前にも言った通り、今はそんな気がないと結婚をせっつかれる前に断った。

「まぁ、すぐに結婚まで考えなくともいいさ」

ただ少しはお前から色気のある話を聞きたいのだ。と、父のかわりに見守ってきたムーティは言った。
情に訴えかける作戦に危うくぐらつくところだったが、ニヤリと笑ったのを見て踏みとどまった。

「庭で見つけなかったか?ん?」

ムーティは突っついて面白がっているつもりだが、アルトリオにはまったく見当がついていない。
それを察してムーティは溜息をついた。

「あの娘が気に入ったからいいとこを見せたんだと思ったんだが、違うのか」

つまらん。とぼやいて続ける。
アルトリオが庭でスカーフを取ってやった女性はフィーネ姫の侍女であったらしい。

「向こうはお前を気に入っているそうだぞ」

そこまで聞かされても、アルトリオはそう易々と浮わついたりしない。
あの時は少年のために動いただけで、下心などなかったのだ。
アルトリオにはそれが重要で、色恋にはさっぱり関心が持てなかった。

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あきゅろす。
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