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短篇

窓に近付くのを恐れ、庭に出ることも避けるようになった姫を心配しているのは侍女だけではなかった。
一連の報告を受けた王と王妃もそうで、その要望を受けて案を出したのはムーティ隊長だった。

「植物園……?」

花瓶の百合を眺めていた姫は、にこやかな侍女へ聞き返した。

「ええ。大きな建物の中にお庭があるんですよ?そこには沢山の蝶が舞っているそうで。それは美しい光景だそうです!」

しばらく部屋の中だけで楽しみを見つけていたエーファには、その誘いはとても魅力的なものだった。
姫がこくりと頷くと、侍女はとびはねそうなほど喜んだ。
エーファ姫の心が安らかになり、幸せな姿を見るのは喜びなのだ。

日程が決まると、姫は口に出してそれを楽しみだと言うようになった。
それを伝え聞いた王と王妃は安堵して、ムーティ隊長に直接感謝の意を述べた。


淡い色を好み、華美な装飾を好まないエーファ姫は、お出掛けのドレスも清楚なものだった。
華やかではっきりした顔立ちのフィーネ姫には鮮やかな色やきらびやかなものが似合うが、エーファ姫のような格好は似合わないと残念がる。
フィーネ姫はエーファ姫が持つふんわりとした不思議な優しさが好きだった。
のんびりおっとりして、目をはなすと危なっかしいような。
けれど信仰に厚く、しなやかな芯の強さも感じさせる。
そんな彼女を尊敬してもいた。

華奢で細い体に、少女めいた可憐な容貌。
そんなエーファ姫に、清楚なドレスはよく似合った。
くるぶしまであるドレスは白と薄紅で、足元には白いくつ。
金に輝く髪を飾るカチューシャも、身を飾るより実用的な意味を持つ。

珍しくも喜ばしい出来事に際し、王と王妃は揃ってエーファ姫の見送りに立った。

「まぁ、エーファ。とっても可愛らしいわ。素敵よ」
「ありがとう、お母様。いってきます」

フィーネ姫と同じ華やかな美しさを持つ王妃は、エーファとハグすると優しく髪を撫でた。

「楽しんできなさい」
「ありがとう、お父様。いってきます」

王ともハグをして、エーファは出掛けていった。


「心配ね」

楽しみを奪われてしまった事も。
そうさせた出来事を不吉だと感じた事も。
だからエーファには何事もなく楽しんで帰ってきてほしかった。

「そうだな。あの子は乗り物酔いするからな」

王妃と同じく深刻な面持ちで頷くが、王の相槌はずれていた。
王妃がそうじゃないと口を開きかけた。が、笑みを浮かべる王を見て笑ってしまった。

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あきゅろす。
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