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短篇
11
食後の休憩時間にマフラーを編んでいると、急に外が騒がしくなった。
どうしたのかと思い立ち上がったマリーを引き止めたサルマーは、ここに居なさいと言って出て行った。
マリーは不安をおぼえ、マフラーを放して耳を澄ましたが、はっきりとした言葉は聞き取れない。

「マリー」
「どうしたの?」

慌てた様子で戻ったサルマーを見て、マリーはさっと立ち上がった。

「来なさい」
「おばあちゃん、何があったの?」

サルマーがマリーを連れていったのは予言の部屋だった。
お手伝いさんも居たのに、自分に立会人がつとまるのだろうかと恐くなる。
サルマーは燭台に火を灯しながらマリーに話した。

「いよいよだよ、マリー。さ、そこへ上がって」
「わ、私がするのっ?おばあちゃんじゃなくって?」
「大丈夫。今のマリーなら出来るから。信じなさい」

急かされるまま台に上がって、覚悟も何も無い内に幕が下ろされる。

「ど…っ、どうすればいいの……?」
「目を瞑って。何も考えず、闇を見つめなさい」

雨戸まで閉められると、室内は燭台の火だけになった。
座ってから、ひとまず心を落ち着けようとそっと深呼吸をする。

「見ようとしちゃいけない。闇の奥から浮かび上がるものを見つけるんだよ」

目を瞑り、何も考えずに見つめる。
言われた通りにするが、闇はただ闇のままだ。
しかし、そうして集中して闇の奥を見つめていると、真っ黒なまぶたの裏にぼんやりと色が浮かんで見えた。
目を瞑っている内に寝てしまったのかと思ったけれど、体は動くし夢ともまた違う。
目の前にスクリーンがあって、そこに映るものを眺めている感覚だ。

「町が……。上から町を、見てる」

そのまま眺めていると、東に何か感じるものがあった。
何を説明されるわけでもない。
ただ、視えている。
気になったものを意識すると、自然にそこへぱっとズームした。

「東にある、二階建てのビル……。廃墟みたいだけど、人が居る」

視えている映像はビルだけなのに、そこから情報が流れ込んでくる。
わかる。

「爆発する。人が……罪の無い人までまきこまれる」

マリーは余計な事を考えず、視えるまま、感じるままに従った。
次は、北だ。

「北にある、大きな施設。人が沢山居る」

わかるままを口にしているので、マリーは言った後からどういう意味なんだろうとぼんやりと思った。

「自警団の皆がそこに向かう。けど、戦うには弱い。負けないけど、てこずる。痛みが大きい」
「他には?」

引っ掛かるものはないかと探す。
するとまた感じられるものが見つかった。

「西に助けがある。爆発する東とそこに人を割いても、結果は一番いい。晴れやかな喜びがある」

スクリーンがぼやけて消える。
そこで、予言が終わりだと悟った。

「……終わり」

これから何が起こるのだろう。
戦うとは何だろう。と、終わってからやっと考え始める。
その間にサルマーは窓を開け、燭台を消して行ってしまった。
しばらくして車が出ていくのが聞こえたので、皆がもう行ってしまったのだと察する。

マリーはそれからすぐ疲れて眠ってしまい、起きたのは日が暮れ始める頃だった。
予言がどんな形で影響したか。
考えると恐くて、震えそうになる。
マリーは膝を抱え、じっと耳を澄ませて皆の帰りを待った。

車が入ってくる音を捉えると、マリーはびくりと肩を跳ねさせた。
重なって届く沢山の声で、帰ってきたのだと知る。
その途端マリーは走り出した。

「クライヴさん!」

見たところ誰もケガをしてる様子は無く、むしろ明るく談笑していた。
しかしマリーの不安はまだ拭えなかった。

「お嬢様」
「クライヴさん、何が……どうなったんですか?私、何も間違えてなかったですか!?」

クライヴは走ってきたマリーの肩を押さえた。

「心配だったんです…!もし、私のせいで何かあったらどうしようって…っ」

クライヴは涙ぐむマリーの肩をそっと撫でた。

「落ち着いて。大丈夫。ほら、皆平気でしょ?」
「本当に……?」
「お嬢様のおかげです。完全に、何もかもうまくいきましたよ」

それを聞いて、マリーはやっと安堵した。
張り詰めていたものが一気にゆるみ、顔を覆って泣き出した。
予言の成功よりも、彼らの無事を喜んだ。

クライヴはそんなマリーを抱き締めてキスしたい衝動にかられたが、慰めるために背を撫でるまでで我慢した。

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あきゅろす。
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