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短篇

「ララがお嬢様を『自業自得』って言ったのよ!」

マリーはそう言われたって仕方ないと思った。

「私達、知ってるのよ?ララ。あなた、お嬢様に嫉妬してるんでしょ」
「な…っ!」

ララは頬を紅潮させて反論しようとしたが、続け様に責められた。

「気付かれてないとでも思った?どうやっても自分に勝ち目が無いから、あなたが企んでお嬢様を危ない目に合わせたんでしょ」
「あなたのせいでお嬢様は、取り返しのつかない目に合うとこだったのよ!?」
「何の話!?私はただ、お嬢様が勝手に抜け出したんだから危ない目に合ったって仕方ないって意味で言ったんだけど!」

勘違いしないで!と言い返すララを、女性陣は図々しいと貶した。

「そうよね!?濡れ衣だって言ってやって!」

ララは高圧的にマリーに答えを求めた。
本当の事はナイショだから言えないし、ララが何か誤解されてるようなのでかばいたい気持ちはあるが、マリーは咄嗟に何もうまいことを思いつかなかった。
だから狼狽えてしまって、それを見た一同はますますララへの疑いを濃くする。

「マリー」

サルマーはマリーを家へ入るよう促したが、マリーはララが気になってそれを拒んだ。
その時、残りのメンバーもやっと戻ってきて、一時会話が途切れた。
しかし彼らは帰ってくるなりシリルのもとへ駆け寄った。

「シリル!クライヴがケガした!」

皆驚いて、動揺した。
が、シリルは比較的落ち着いていた。

「程度は?」
「右の腕から肩と、胸のあたりをナイフで切られた。出血が酷くてすぐ病院に連れてったら、入院だって。だけど、命に関わるほどじゃない」

マリーは両手で口を押さえ、とんでもないことをしてしまったと自分を責めた。

「アンタのせいだッ!アンタが鈍臭いから…ッ。アンタがケガさせたんだ!」

マリーに噛みつきそうな勢いで叫ぶララを、周りが掴んで抑え込んだ。
言われなくても十分責任を感じているマリーは口を押さえたまま、何も言わずに涙ぐんだ。
いい加減にしろと言われても、ララはマリーを罵倒し続けた。

「お嬢様なんて言われてちやほやされて!上品ぶってわざとらしい!調子に乗ってヘラヘラしてるから簡単に騙されるんだよ!アンタなんか…ッ、戻って来なければよかったんだッ!」

皆絶句して、耳を疑った。
マリーの見開いた目から涙がこぼれる。
ララはマリーを、死ねばいいと思って騙したのだ。
その叫び声が頭の中でこだまして、マリーの心を切り裂いていく。

「お嬢様が危ない目に合ったんですよ!?もし、遅れてたら…!」

シリルの声も、握り締めた両の拳も、怒りで震えていた。

「悪いのはみんなソイツじゃない!クライヴがケガしたのだって、みんな…!みんな、ソイツが居なければよかったんだッ!」
「ひ…っ、ぅ…ふぇ……」

顔を覆ったマリーの泣き声が、訪れた静寂の中に響いた。

「ふ…ぅ、えぇ〜…っ」

ケガをした時も声を押し殺して泣いたのに、今は声を上げて泣きじゃくっていた。

「シリル?」

立ち去ろうとするシリルにメンバーが声をかけると、シリルは怒りを堪えて唸るようにして言った。

「女性を殴るわけにいかない。……少し冷静になってくる」

シリルはベースに戻り、えぐえぐと泣きじゃくるマリーはサルマーに手を引かれて家へ戻った。

「そんなんだから……」

ぼそりと、独り言ちるように女性が言った。

「そんなんだから、いつまでもクライヴに見てもらえないのよ」

それは、ララ自身よくわかってることだった。
どんなにララが気を引こうとしても、ちっともララに見向きもしない。
ララに望みは無い。
なのに、マリーはその人の心をあっという間に手に入れてしまった。
見ていればわかる。
誰の目にも、彼女に注がれる視線が他とは違うってわかるのに、彼女だけがそれをわかっていない。

そののんきさに。鈍さに。贅沢さに。
腹が立って。
その清らかさが。麗しさが。真面目さが。
羨ましいほど尊いとわかってる。
自分には得られないもの。
それをクライヴは見ているのもわかってる。
マリーを見るほどに劣等感を抱き、己が醜く思えてくる。
その苛立ちを。嫉妬を。憎悪を。
根源であるマリーと共に排除しようとしただけだ。
あの子を突き飛ばして、追いやって、クライヴの目の前にある綺麗なイスには自分が座る。

ララはがく然と自分の両手を見つめた。
自分の腕が、罪に染まって汚れて見えた。
渇いた自嘲がもれる。

なるほど。こんなんじゃ……。
こんな汚れた根性じゃ、クライヴに相手にされないのも当然だ。

今は素直に、あの綺麗なお嬢様が羨ましいとララは思えた。

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あきゅろす。
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