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短篇

祖母サルマーの家には、何人かの女性が手伝いとして出入りしていた。
彼女達は敷地内の、彼らがベースと呼ぶ建物の方の手伝いも兼ねていた。
彼らは町の治安を守る為に組織をつくり、自警団として活動しているという。
サルマーはベースの場所を提供し、その活動を支援していた。
それは時に予言の力でも。

自警団の者は皆サルマーに感謝し、敬意を払っていた。
だからマリーにも丁寧に接し、お嬢様と呼んで姫の様にむかえてくれたが、マリーは自惚れたりしなかった。

自警団をまとめるリーダー的存在のクライヴもまた、シリルと同じように恭しく礼をした。
形ばかり真似たものはぎこちなく、違和感を抱くものだが、彼もシリルもまた絵になっていた。

「はじめまして。クライヴです。サルマーさんにはいつもお世話になっています」

自警団のメンバーは皆引き締まった体をしていたが、特にクライヴは長身であり、筋肉質で強そうな人だった。
なのに朗らかに笑って、ムードメーカーにもなっていた。
彼の周りにはいつも人が集まって、笑いがたえない。

自警団の男性陣は、マリーに不用意に触れたり近付きすぎることを避けていた。
二人きりにならないよう気を使っていた。
サルマーの孫である事と、次代の予言者である事と、年頃の女の子であるという複合的な理由から生じた暗黙のルールだった。

地味で目立たない、真面目で控えめな性格だから色恋には縁が無かった。
何より、マリーは祖母の教えを真摯に受け止め、真面目に守ろうとしたことが大きい。
『心から愛した人でなければ、体に触れてはいけない』と。

妹は鼻で笑って聞き流したが、マリーはその言葉がずっと心に残っている。
男性との接触はいけない。と意識してはいなかったが、簡単に浮わついた気持ちを持たないようにはしてきた。
その貞淑であろうとする意識が知らず態度に出ていたのも、ルール化した一因かもしれない。

マリーは立場に甘えず、おごらず、翌日から毎日女性陣と一緒に働いた。
掃除、洗濯、炊事に畑仕事まで。
その内に自然と、作業着として黒い外套を着るようになった。

気をつけてねと言う年配のお手伝いさんに頷いて、マリーは大きなバケツを手に川へ向かった。
桟橋の先まで来ると、バキッという音と共にすとんと左足が落ち、川にぼちゃんと浸かった。
突然の事態に驚いて、マリーは悲鳴も出なかった。
ひゅっと息を吸い込んで、硬直し、ばくばく鳴る胸を押さえて呆然とする。

「お嬢様?どうしました?」

答える言葉も見つからず、目を丸くしたまま振り返ると、自警団の一人が下りてきて川岸で様子を窺っていた。
そこにまた一人やって来て、あっと声を上げた。

「やっべ!危ないって言われてたトコだ!」
「お前…!まだ直してなかったのか、バカ!」

どうやら前から危なくて直す予定だったところに気づかず歩いてしまったようだ。
言いながら彼らは来てくれようとしたが、一人が足を止めもう一人を制した。
止められた方は何故だと不思議な顔をしたが、女性陣を呼ぶとその理由を察したようだった。
助け起こすにも、触れるのはまずいと考えたのだろう。

片足だけ落ちた格好が間抜けで、しかもそれを見られてしまって余計に恥ずかしくなった。
何とか自力で起きようとしてみるが、お尻も半分落ちかけているので、手を突っ張って体を支えるのでやっとだった。
片足だけでは踏ん張りがきかず、立ち上がるのは無理だ。
情けないが、助けてもらう他無い。

若い女性が来てくれて手をかしてくれたが、上がることはできなくて、また落ちかける。

「あの、どうか気にしないで。お願いします。手を貸してくださいますか?」

男性に頼むが彼らは戸惑って顔を見合わせ、女性に本当にいいのか?と目で問う。

「おい!大丈夫か!?」

騒ぎに気付いて川岸に集まった中から、足音が近づいてきてくれる。

「クライヴ!」

困った彼らに聞いて事態を把握すると、彼は躊躇いなくさっと手を差し伸べてくれた。

「すみません。少しガマンしてください」

前から両脇に腕を通して、抱えあげてくれた。
が、体がふわりと浮いた瞬間、足に痛みが走った。

「あっ、待って!」
「どうしました?」

彼はそのままの体勢で静止した。

「あ、足が…っ。ケガしたみたいで、木が……」

言うとすぐ彼は女性に見てくれるように言って、外套とスカートをめくって見るので顔をそむけて見ないようにしてくれた。

「うわ……大変。太ももをだいぶ擦りむいてる。トゲが入ってるかも。支えてるから、引っ張って」

痛みで既にべそをかきそうなのに、傷の状態を聞いたら恐くなって余計に泣きそうになる。

「よし。いくぞ。せーのっ」

引っ張りあげてもらえたが、足がずきんと痛んで力が入らなかった。
悲鳴はかろうじて飲み込んだものの、崩れ落ちそうになった。
それをすかさずクライヴさんが支えてくれた。

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あきゅろす。
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