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短篇

「見せたいものがあるの」

シャツを掴んで引いていくと、最初はなぁに?と笑みを見せてくれていたのに、壁一枚まで近付くとその足が止まった。

「どうしたの?」

やっぱり嘘だよって言われるんじゃないかと恐くなり、じっと見つめる。

「いや。俺なんかが近付くのは、おこがましいかと」

キザで、少し意地悪で、自信家に見えるのに、今の彼はうつむいてとても申し訳なさそうだ。
そのまま消えてしまいそうで、いやいやと首を振る。

「平気よ。私が私だからあなたと本当の恋ができたんだもの。おこがましいなんてないわ」

彼は苦笑して、やっぱり敵わないと手を上げた。


ふわふわと飛ぶ後を、彼は歩いてついてくる。

「ほら見て。あれがそう」

指を差して教えてから、再び鏡へ視線をやった時、少女精霊はあっと声を上げた。
鏡のくもりがすっかり晴れ、以前にも増してきらきらと光を反射していたのである。

「戻ってる…!鏡が、戻ってるわ!」

すべてを話すと、彼は一緒に喜んでくれた。

「鏡は真実を映す。もし君が俺に騙されてるなら、それは本当の恋ではなく、本当の幸せではないだろう?だからこの鏡だって、こんな輝きを取り戻したりはしないさ」

信じていたとはいえ、聖なる鏡の証明を見て彼もまた安堵したのかもしれない。

「私が帰ってもくもったままだったのは、あなたを忘れられなくて苦しんでたからなのね」

鏡は真実を映す。


「誰か気付かないかしら?鏡が戻ったってわかったら、私も帰ったってわかるでしょう?怒ってなんかいないってわかるでしょう?」

そわそわして飛び回る少女精霊を、悪戯妖精はこんな状況でも可愛らしく思えて顔がゆるんだ。

「大丈夫。こんなに輝いてるんだから。すぐに気付くさ」

それでも精霊は不安そうだが、賑やかな声が聞こえると徐々に明るくなった。
ほら来た。と、妖精はウインクした。

「ちゃんと精霊様にご挨拶するのよ?」
「はーい!」

入ってくるなり、幼い少女が駆けていく。
その後を両親が着いていく。
精霊も少女を追いかけて、早く見てと急かすように飛び回った。

「パパ、ママ。鏡、なおってるー」

両親が顔を見合わせるのと同時に、精霊と妖精も見合わせた。
両親は慌てて駆け寄り、それを確認すると声を上げて家の者を呼んだ。

「誰か!来てくれ!鏡が戻った!戻ってる!」
「精霊様のお怒りが鎮まったのだわ…!」

もっとよく見たいと跳ねる少女を、父親が抱えて見せている。
すっかり安堵していた精霊はハッと思いつき、もう一度少女のまわりを飛んだ。
純粋な心を持つ子供なら見えないかと思ったのだ。
言うと、妖精もそうかと頷いた。
けれど家の者が駆けつけたので父親は少女を下ろし、そちらへまわってしまった。

「あーっ、まだ見るのにー」

一族の大人達が状況を説明し、安堵し歓喜している中で、少女は自分でイスを動かして覗きこんだ。

「パパ!ママ!」

大人達は何事かと恐れ、少女のもとへ集まった。
が、少女はばたばたと手を振ってそれを拒んだ。

「あー、だめぇ!みんなうつっちゃ!見えなくなっちゃう!」

大人達は耳を疑った。
そして、少女精霊も。

「見えてる……?彼女は、君が見えてるんじゃないか!?」

妖精が喜ぶ声で、少女精霊は理解した。
少女の頭の横に顔を寄せる。

「精霊様よ!精霊様が居る!金髪の可愛い女の子が居るの!」

一瞬の静寂の後、爆発的な声が響いた。

「精霊様が戻られた!」

鏡の元の持ち主である夫人も、精霊様は金髪の少女だと言ったという。

一族に垂れ込めた暗雲は晴れ、家の中にも笑顔が戻った。
そして一族はますます栄えた。
それはすなわち、精霊が幸せな証でもあった。

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あきゅろす。
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