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短篇
15
膝の上でぎゅっと両手を握り締め、腹に力を入れる。

「あ、あのっ!」

突然大きな声を出して家族の皆も驚いていたが、フルール自身も思ったより大声が出てしまってドキドキしていた。

「えっと……。私は、臆病で……逃げ癖があって……、そのせいか人付き合いがヘタで、何だかいつも嫌われてしまって……。だけどルシアンは、そんな私のよくない評判とか、人伝の話を信用せずに、直接私のところに来て“話そう”って……」

緊張して、両の拳にじっとりと汗を握る。

「どうしてあんな人に構うんだってたくさん反対されたのに、それでも“自分が見たものを信じる”って言ってくれました。そんな素晴らしい人だからこそ、私は近付いちゃいけないと思いました。彼を好きになってしまっても、彼から想いを告げられても、私は“こんなことあっていいはずがない”と恐れていました」

話している内に気持ちが高ぶって、涙が込み上げる。

「こんな私でも、彼は“幸福のすべて”だと言ってくれた。彼は私に“賛美されるべきだ”って言うけど、賛美されるべきはいつでも彼の方です。皆さんが言うように、私は彼には相応しくありません。だけど私にとっても、彼は“幸福のすべて”です。彼と一緒に居られるように頑張ろうって思わせてくれた。こんな私なんかのことでは損なわれないほど、彼はずっと、とっても素晴らしい人です。だから…っ、信じてくれた彼のために、少しでも相応しいと認めてもらえるように、頑張ります…!」

目を丸くする面々の反応がこわいけれど、涙が溢れそうで、うつむいて逃げることができなかった。

「フルール」

せめて泣くまいと堪えていたのに、ハッと振り返った時にぽろりと溢れた。

「ルシアン」

抱えた薔薇の花束をテーブルに放し、優しく包み込んでくれる。

「まったく、君は。努力するとは言ってたけど、まだやっと歩けるようになったばかりなんだよ?」

体を放すと指で涙を拭って、続ける。

「もう少し僕に甘えていてくれてもいいのに。そりゃあ、挨拶を急かしたのは僕だけど。そんなにいきなり……。いや、ごめん。ありがとうって言うべきだったね。フルール、とっても勇気が要っただろう。ありがとう」

額にキスをして、ほら。と、薔薇を一輪手渡す。
トゲが落とされているから、触れても痛くない。
見ると、すべての薔薇のトゲが落とされている。
そんな彼の優しさに、自然と微笑みが生まれる。

「やっぱり、君は笑顔の方が素敵だ。僕に見せてくれるその素敵な笑顔を、他の皆の前でも見せてあげれば、誰だってもう君を誤解できない。そう思うのに、僕だけの宝物にしておきたいって気持ちもある。頑張る君を応援したいけど、いつまでも僕だけのフルールでいてほしいと思ってしまうんだ。僕に本当の幸福というものを教えてくれた。それだけで僕は構わないんだから」

そう言うなら二人だけの時にしてほしいのだが、愛しげに髪を撫でながら、また愛を語りだす。

「ルシアン。わかったから、もうそのへんにしときなさい」
「ですから、お父様。僕は計算で振る舞っているわけではありません」
「いや。だから、それを理解したということだ。お前が何をおいても彼女を一番に考えていることを十分に理解した。彼女への執着は我々への反抗だという思い込みも、一時の気の迷いなのだから彼女と引き離せると思ったのも皆、見当違いだったのだな」

ルシアンが浮かべた笑みは冷ややかなものではなく、にっこりとあたたかいものだった。
それを見たお母様は長く息を吐き、そうね。と夫に同意した。

「命懸けの恋、なのね」
「そんなもの、詐欺師か恋に酔った愚か者が口にするもんだと思ってたわ」

母の言葉を引き取って妹が呟く。
ルシアンはそれに微笑みで応えただけで、早々に愛を囁くモードに切り替わる。
家族と話す時間はないと言わんばかりだが、諦めか許容か、家族は見守る姿勢だ。

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