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短篇
13
庭に出られるようになって何度目かの散歩の中で、ルシアンから家へ来ないかという話が出た。
向こうのご家族に歓迎されなくても落ち込むなと、娘を心配した両親は重ねて言ったが、フルールはもう簡単に落ち込んだりしないと意気込んでいた。
とはいえ、いざ対面して気まずい空気がその場を支配すると、さすがに居心地が悪くてまいってしまう。
我々の責任だと頭を下げるお父様に慌て、家や息子のことを思ってのことで悪意があったわけではないと弁解するお母様に笑みをつくる。
庭に出ないかというルシアンの助け船を喜んだのはフルールだけではない。
ご両親は助かったという顔で是非そうしなさいと二人にすすめた。


「はじめはこんなもんだよ」

背を撫でて慰めたルシアンは、思ったよりリラックスした笑みをしていた。

「あの人達も責任を感じて頑張ろうとしてくれてるし。時間が必要なんだよ」
「そうよね。すぐに仲良くとはいかないわよね」

ルシアンのお蔭で強張りがとけ、庭を楽しむ余裕が戻った。
薔薇のアーチをくぐり噴水が目に入ると、フルールはわぁっと声をあげた。

「とても素敵なお庭」

フルールが声を弾ませると、ルシアンはよかったと言って目を細める。
かと思えばいきなりぴょんっと噴水の縁に飛び乗り、フルールを驚かせた。
危ないとハラハラするフルールに「平気だよ」と微笑んでみせる。
が、その時。

「おっと、危ない」

ルシアンの体がぐらりと傾き、フルールはひゃあっと悲鳴をあげてぱっと両手で顔を覆った。
……しかし水に落ちる音がしないのでそろっと顔を上げると、悪戯な笑みを殺すルシアンがまだそこに立っていた。
ふざけておどかされただけだと悟ると、可笑しそうに笑いだした。
ぷぅっとむくれるフルールに手をのばし、おいでと甘い声色をこぼせば一発で機嫌がなおると思っているのだ。
けれどそれは間違っていない。
ずるいと拗ねてむくれながらも、ルシアンに呼ばれれば無視することはできないのだから。

「ほら、平気だよ。僕が君を落っことしちゃうわけないだろう」
「それは、わかってるけど……。おどかすのも無しね?」
「わかった。それじゃあやめよう。しないよ」

する気だったのかと無言で責めると、本当にしないと言ってくすくす笑う。
ルシアンの支えでフルールも縁にのぼると、腰にまわる腕に引き寄せられた。
たくましい胸板にそっと寄り添うと、胸から溢れた幸福感に全身を包まれるようでうっとりしてしまう。

「僕のかわいいフルール」

背が反るほど強く抱き締められると足元が不安定になって、落ちないようにぎゅっとしがみつく。
ちゅっと音を立てて唇が触れ、放れる。

「この愛しさをどう言葉にしたらいいのかわからない」

鼻と鼻が触れそうな距離でこんな甘い囁きがもたらされたら、あの城内は今ごろ蜂蜜の洪水で大変な騒ぎになっているだろう。

「こらっ、そこの二人。隠れていちゃついてないで戻ったら?あの人達が心配して私に見てこいってさ。さすがに婚前交渉はマズイんじゃない?」

フルールは赤くなった顔をうつむいて隠した。
ルシアンは妹を一瞥して、やれやれといった具合に溜息をつく。

「ガサツなお前と違ってフルールは繊細なんだ。こんなところで“致し”たりしないさ」
「場所じゃなくって婚前交渉を問題だと思わないのかね、お兄さまは」
「もちろんわきまえてはいるさ。ただ、それはフルールが嫌だと思うからだ。僕はフルールの心を第一に考える」

今度は妹が溜息をつく番だった。

「ほんっとに、どうしてお父様達がこの二人を引き離すべきだと思えたのか訳がわからないよ」

ルシアンはふふんと片頬で笑って、フルールを抱えて噴水の縁から下りた。
キスすることはあっても、ルシアンがあからさまにそういった話題を口にする様を見たことがなかったから、フルールは戸惑いと羞恥でしばらくは真っ直ぐ彼を見つめ返すことができなかった。

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あきゅろす。
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