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短篇

フルールが生まれ育った田舎では、近所に同年代の子が少なかった。
唯一居た女の子は気が強く、はっきり自己主張ができる子で、おとなしいフルールは萎縮してしまった。
フルールは彼女と友達になりたかったが、うまくいかなかった。
学校に通うようになると、彼女は他に自分と合う女の子達と仲良くなった。
そしてフルールを“暗くてつまらない子”と笑った。
まもなくフルールにも自分と同じくおとなしいタイプの友達ができたけれど、病弱な彼女は学校を休みがちだったので、一人で居ることも少なくなかった。
だけど、フルールにとって彼女は大切な友達だった。
ママが口うるさいとか、パパが頼みを聞いてくれないとか、そういう些細な愚痴を言い合ったりすることはあったけど、彼女とはいつも楽しい話ができた。
空想に満ちた、夢物語。
子供じみてるとわかっているから、他の人とはその話をしない。
しかしどこかで聞かれたのか、それについてこそこそと笑われるようになっていった。
それでも友達の存在が心強く、一人で居ても耐えられたのだ。

『ごめんね。空気のきれいな場所に引っ越そうってパパが』

ううん、いいの。謝らないで。
あなたの体のためだもの。大丈夫。
手紙を書くわ。

『フルール。元気?こちらに引っ越して、体の調子がとてもよくなったの。友達もできた』

彼女は前に進んでいくのに、自分だけが一人取り残されたようだった。
これをきっかけに、人に子供っぽい空想の話をするのをやめた。

『ねぇ、フルールって秘密主義だと思わない?』
『私もそう思ってたの。自分のことはしゃべらないで私達の話を聞いてるじゃない。内心どう思ってるかわからないわよね』
『ひどぉい。フルールってやっぱりそういうところあるわよね。自分だけいい子ぶって。お姫様気取りっていうか、自分だけ特別みたいな感じ』

女同士で集まれば、その場に居ない人の悪口を言い合うものだとママは言った。
愚痴や悪口を言い合うのは仲間意識を生む儀式のようなものだと。
フルールはそれを理解できず、馴染むことができなかった。
けれど男性を射止める競争相手となる女性間では、本能的に牽制しあうのだと考えれば納得できた。
お喋りで仲間の絆を確認しあい、同盟を組む。
そこに適応できない者、弾き出された者は敵視される。

『高慢よね。一人だけ清廉潔白みたいな顔で私達の話に苦笑するのを見てると、なんだか馬鹿にされてるように見えるの』
『ああやって純情でおしとやかなお姫様をしてれば男にもてはやされると思ってるのよ。あさましい』
『結局私達より男が大事なのよ。じゃなきゃぶりっ子しないわよね』

子供っぽい空想も、臆病でおとなしい性格も、みんなフルールの個性だ。
それが嘲笑されて嫌われてきた。
弁解しても伝わらなかった。
結局、誤解されるようなフルール自身が問題なのだ。

『ずるい。そうやって被害者ヅラして、自分はかわいそうって悲劇のお姫様気分に酔ってるんでしょ。それで“あの人”に泣きついて守ってもらって……。ずるいわよ、フルール』
『どうしていつもフルールなの?あなたなんかより、あなたに騙される“彼”の方がずーっとかわいそうだわ。狡猾ね、フルール。私達を利用してるんでしょ。私はあなたが恐ろしい』

自分が言われるならまだいい。
けれど、自分をかばうことで“彼”の評判まで下げることになるのは嫌だった。

「ルシアン……」

その姿を思い浮かべると、じわりと視界が熱く潤む。
迫る闇に弱気になり、ひくりと呼吸がひきつる。

『フルール。僕は理解できない。君の友人と称する女性方はどうして僕に君と付き合うなと言ってくるのか』

それはあなたが人気者で、私が嫌われ者だから。

『親しい友人と言いながら、彼女達は君をおとしめることばかり言うじゃないか。そんな人達のことを僕が信じられると思うかい?だから僕に君から離れろなんて言わないでくれ。本当に僕のことを思うなら、そんなことは言えないはずだ。そうだろう?』

ルシアンは誰に何を言われても、いつも味方で居てくれた。
支えとなってくれた。
ルシアンは希望。光だ。
光がさして、闇が遠退く。
何処に居たって彼は助けてくれる。

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