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短篇
11
ブロスフェルトさんも恩人で、感謝してもしきれない。
けれど彼は何でもない事のように明るく笑って、またいつでも遊びにおいでと言ってくれた。

「きっと…っ、きっと来ます。私、何ができるかわからないけど……恩返しができるように頑張ります…!」

するとブロスフェルトさんはウインクをして言った。

「それなら、こいつの事をよろしく頼むよ、エミリア」

もちろん。なんて調子を合わせて答える経験も余裕も無く、ただ赤面するしかなかった。
そしてブロスフェルトさんはフィルツさんの肩を叩いて。

「まさかお前が、こんなに可憐でか弱い、健気でがんばり屋の素敵な女性を射止めるとはね」

からかうのとは違い、そこには友人への素直な祝福が表れていた。

「彼女を悲しませるようなマネはするなよ」
「当然」

その友情は感動的で、羨ましいとさえ思った。


自宅は古いアパートだと言っていたが、すぐにそれが謙遜だと知る。
確かに建てられた年代は古いのだろうが、きっと歴史的に価値があるようなものだ。
通りの建物もきっとみんなそうだ。
石造りの立派な建物ばかりで、ハイクラスな人達が暮らしてる地区なのだと思う。
すると尚更緊張してきて、大家さんへの挨拶も体が強張る。

「はじめまして。エミリアと申します。これからお世話になります。どうぞよろしくお願いします」

丁寧に頭を下げて、失礼がないように気をつけた。
大家さんは恰幅のいい明るい女性で、いらっしゃい!と笑顔で歓迎してくれた。

「まあまあ!可愛らしいお嬢さん!先生も水臭いわね。こんな素敵な女性がいるならどうして言ってくれなかったの?」

フィルツさんは黙ってしまったが、大家さんは大きく手を広げたりフィルツさんの肩をバシバシ叩いたりと、派手な動作で豪快に笑いながら続けた。

「真面目なのはいいけど、仕事ばっかりだったから、いい人ができないのかって心配だったのよ!それが、こーんな素敵な人が居たなんて!」
「急にお邪魔する事になってしまい、すみません」
「いいのよ、いいのよ!それにそんなかしこまらないで。甘いものは好き?落ち着いたら後でブルーベリーパイを食べましょ?」

フィルツさんは適当に返事をして切り上げ、強引に背を押し「いいから」と遮ってしまった。
喜んで。と去り際にお茶の約束をして、もう一度頭を下げた。


ホールは六階まで吹き抜けになっていて、螺旋階段が続いている。
二階へ上がると金髪の長身の男性が出てきて、また挨拶をしたのだが、とても陽気な人で、握手をした手をさっと引き寄せて手の甲にキスをした。
女性へのお世辞が無いのは失礼だと考える人にとっては、そんな事は単なる軽い挨拶なのだろうが、慣れてない自分にとってはとてもびっくりする事で、目を丸くしてしまった。
彼は気を悪くせず笑ってくれたが、フィルツさんは彼をさっさと追い返した。

その後も上る度に誰かが出てきて挨拶をする事になり、やっと五階の部屋についたと思ったら、今度は上から声をかけられた。

「やぁ、先生!可愛い彼女だね!紹介してよ!」

フィルツさんはうんざりして「うるさい」と手を振ったが、挨拶は大切なのできちんと名乗って頭を下げた。
押し込まれるように部屋に入れられ、フィルツさんはやれやれと溜息をつく。

「君をここに迎えるために、大家さんに事情を話したんだ。彼女がお喋りだとわかってたけど、まさか住人みんなに筒抜けになるとはね」

それで皆さん気になって出てきたらしい。

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あきゅろす。
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