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短篇
18
海外セレブのエンタメニュースを目にしたことがあるから、日本でもパパラッチの存在はなんとなく知っていた。
みこ自身も芸能活動をしていた経験があるし、例の事件のせいでマスコミに追われる立場を味わったこともある。
だからエリスにパパラッチが張りついていると聞かされた時も平気だと思えた。

時差もあったし、初日は観光どころではなかった。
その後も危ないから一人では絶対に外出してはいけないと言われたのもあるし、エリスと一緒じゃないなら外に出たいという気にはならなかったので、エリスが不在の間は家政婦のステイシーと勉強会をして過ごした。
海外の舞台をもっと楽しみたくて英語を勉強したけれど、エリスの日本語並みにとはいかないので“できる”なんて言えなかったが、コミュニケーションをとるのに問題ないと言われて安心した。
それでも喋るのはゆっくりだし、発音も未熟だし、習うことはたくさんある。
楽しみながら勉強しようというステイシーの提案でフラワーアレンジメントも習いはじめたら、エリスが自分よりステイシーと過ごす時間が多いと拗ねていた。
とはいえ、エリスは十分みことの時間を優先してくれているのだ。
夜は必ず家で一緒にディナーをとるし、オフの日も一緒に過ごせた。
出掛けることになったのはアメリカに来て一週間を過ぎた頃だ。
前回のオフの日もショッピングに行こうか?と誘われたが、エリスと過ごせればいいからエリスが決めてと言ったら家でのんびり過ごすことになった。
今回はショッピングをしてからディナーの予定だ。

家を出た時から車のあとをつけているバイクがパパラッチだと教えられていたのに、男性が興奮して大声をあげながら走ってきたら恐怖を感じた。
ぎゅっと肩をすくめ咄嗟にエリスの腕にしがみつくと、パパラッチに向けて腕を上げ距離をとってくれと示してくれた。

「みこ。大丈夫だよ。彼は君に危害を加えない」
「ごっ、ごめんなさい。びっくりして……」

驚くパパラッチにも、拙い英語で謝った。
エリスがパパラッチと何か会話をしても、混乱気味の頭では英語を理解する余裕がない。
その間にも肩を抱くぬくもりが安心を与えようとしてくれている。

「みこ。みこ?平気?」
「あ、うん。平気。大丈夫」

落ち着きつつある胸を押さえて、こくこくと頷いて答えた。

ショッピングをしていても、店から他の店へ移動する時もパパラッチは張りついていて、隙さえあれば話し掛けてきた。
エリスは怒りや不快感を示したりせず、拒絶したり反発したりもしない。
いつもと変わらぬ優雅な微笑みを浮かべるエリスに比べて、みこは戸惑ってすぐ動揺してしまう。
もっと堂々としてないとみっともないと頭では理解しているのに、心が、それに追いつかない。
つい臆病になってびくびくしてエリスにくっついてしまう。

夜は日本食レストランでアメリカに来て以来初めての日本食だった。
今日一日で、やっぱりエリス・エンジェルには自分は不相応だと実感していた。
それでも一緒に居たいのだから困る。

「疲れたろう?」
「うん、少し……」

正直に言うとエリスはくすりと笑った。

「彼らにも“ひよこ”って呼ばれてたね」
「あなたがバラしたからです」

小さく頼りない、つまらないものだと揶揄され、侮蔑されている気になるのは被害妄想だろうか。
エリスならば愛情を感じられるが、他の人にその呼び方をされるのは嫌な気分になる。
だが、名前を聞かれたのに反応して明かしてしまったのは失敗だった。
ありえないかもしれないが、万が一みこの過去が知れるようなことになれば、彼のイメージに傷をつけるかもしれない。
ネガティブな印象を与えてしまうことになるかもしれないのだ。

「何を考えてる?」
「え?」
「心の中で、考えこんでるね」

見透かされた。
マズイと思いはしたけれど、ごまかそうという気にはならなかった。

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