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短篇
16
映画のキャンペーンで来日した際、日本の女性はどうですか?といった質問が投げかけられる。
質問する方もいい答えが返ってくると予想していて、それがファンサービスになるとわかっている。
ファンもその答えを期待して、サービスと知りながらも酔いしれる。
エリスはルーツに日本が含まれていて、日本語も流暢だという点から日本人に親しみを持たれているが、やはり海外のスターなので住む世界が違う夢のような遠い存在だ。
だから日本人にもチャンスがあると現実的に考える大それたファンは現れない。
訪れた多くの国々で出会う女性の中で、エリスの一夜のお相手に日本人が選ばれたと妄想を膨らませるならまだしも、恋人というエリスの“大切な人”の座に同じ日本人が選ばれるのは現実的ではないのだ。
本人からの明言がない限り、噂はあくまで噂。
それが破られたのは、出会いからまもなく一年が経とうとしている時だった。
エリスは次の作品のための準備期間に入っていて、アメリカを離れられない状態が続いていた。
映画の撮影を終えてからのオフの期間は多くの時間みこと過ごしてくれたから、我儘を言ってはいけないと我慢していた。
前回同様、毎日の様に連絡をとりあっていたし、花束のプレゼントも定期的に贈られた。
けれど出会ってから一年を迎えるにあたって、先のことを考えはじめたのがいけなかった。
次に会えるのはいつになるのかわからない。
何ヵ月、酷ければ半年一年。
エリス・エンジェルと付き合っているのだから理解しているが、遠距離のままこんなペースで続けていたら彼と過ごせるのは一年の内にどれくらいか。
困らせるとわかっていて、さみしさのあまり「あなたのところに行きたい」と弱音を吐いた。
するとエリスは「じゃあおいで」と迷いなく言ったのだ。

「離れてる間に不安になって体調を崩すくらいなら、いっそ僕のもとに来てしまえば……。なんて言ってしまう程度には僕も君が恋しい。ムリにとは言わない。ただ、僕のかわいい雛をかまって癒されたい」

当たり前だが、彼もさみしいのは同じなのだとその時感じた。

「あなたの仕事を増やすことになりませんか?私が行ったら……よけいな心配を増やすことには……」
「何を言うんだ。君が負担になるとでも?面倒事だって?それでもし仕事に影響が出るとしたら、間違いなくいい影響だね!」

そういうわけで、出会って一年のお祝いはアメリカで過ごせることになった。
エリスが恋人の存在を認めたのはそんな時だ。
誰と付き合ってるの?というパパラッチの問いに、「ひよこみたいな人だよ」と答えたのだ。
その動画はスクープとして世界中に配信された。

「ひよこ?どういう意味?」
「目が離せないんだ。そばで守ってあげてないと心配なところがかわいいし、癒される。彼女は大人の女性だけどね。でも、とても心が純粋な人だよ。それこそ生まれたてのひよこみたいに」

それからエリスの新恋人の姿を撮ろうとパパラッチがはりつくことになった。
みこが渡米する日も、空港に迎えに行ったエリスを見つけてカメラを回していた。
そのカメラには、恋人のために真剣にパパラッチに頼み込む姿が映っていた。

「彼女はシャイで、とても繊細な人なんだ。君達を見たらきっとすごく恐がる。慣れない国に来るだけでも大きな決断だった。彼女を傷付けたくない。怯えさせたくないんだ。だから、協力してほしい。お願いだ」
「わかったよ。話し掛けない。それでいいだろ?」

パパラッチへの対応がよく好感度が高いエリスの頼みは断れない。
だからエリスの恋人に気付かれないように隠れて撮るというところまで譲歩した。

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