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短篇
14
いざ再会したら照れてまともに目を合わせることができず、ちらちらと上目でうかがいながら、引っ込み思案の子供みたいにもじもじしてしまった。

「ひさしぶりに会えたのに、ハグもしてくれないの?」

会いたかったよと両手を広げたエリスを前にして一度躊躇ってしまったら、時間が経つごとに踏み出す勇気が必要になってくる。
ぱっと勢いで行ってしまえばよかったと悔やんでも遅い。
エリスはにこにこと嬉しそうに微笑みながら、みこが抱きついてくれるのを待っている。

「しばらく触れ合わなかった間に、また僕がこわくなっちゃった?」
「そんなこと…っ」

ハッとして、ぷるぷる首を振る。

「それじゃあできるよね?」

優雅に微笑み優しく問いかけているようでいて、有無を言わせぬ圧力が全身から放出されている。
躊躇いなどエリスにかかれば親指と人差し指で軽くぷちっと潰されてしまう。
うつむいたまま歩み寄り、恐る恐る、手をのばす。
ジャケットを摘まもうとして指を引っ込めたのは、服じゃなくて、もっと彼に近い、ぬくもりを感じられるのがいいと思ったからだ。
やはり思いきって飛び込むしかない。
そう覚悟して顔を上げた。
なのに間近で目が合ったら泣けてきてしまって、結局すがる様に寄り添って顔を隠した。

「は…っ、はずかしかったの。こわくなんか……」
「うん。わかってる」

背に腕がまわりすっぽり包まれると、ドキドキするのに安心もする。
エリスはほぅっと息を吐いた。

「ようやく君を抱き締められた。どれほどこの時を待ち望んでいたか。仕事を忘れ、役からはなれた時にふと、ここにみこが居てくれたらと何度思ったか。ああ、いや。君を責めたいわけじゃない。それほど君が恋しかったんだ」
「わかってます」

でも、それは理想だった。
考え出すと焦ってしまう。
よちよち歩きの雛が身の程知らずにも、はばたいて天使のそばに行ってみたいと願う。

「エリス。変な話を、してもいーい?」

やわらかく包む腕の中で問うと、寄り添った胸で相づちの声が響く。

「小さい頃にテレビでね、醜いアヒルの子のアニメを見たの」
「本当は雛が美しい白鳥だったやつだ」
「そう。私はそれを見て、悲しくなったの。うまく言えないけど、ショックっていうか……。私は同じ醜い雛でも、将来白鳥にはなれないんだとわかった。現実を突きつけられて、自分の器を思い知った」

エリスは抱き締める腕に力を込めて、どうしてそう思ってしまうんだと悲しげな声を出した。

「でも本当だった。私は白鳥じゃなかった。成長したって、天使のそばで飛ぶのは似合わない醜い鳥のままなのよ」
「みこ。ダメだよ、そんな考え方は。君は似合わないと非難されたら諦めて身を引くのか。僕が好きだって言ったろ?大事なのは、僕達が愛し合ってるってことだ。そうじゃない?」

わかってる。と頷いて、背中に手をまわして抱きつく。

「白鳥にはなれないし、なろうという気もないの。まだ私はあなたにとって、手のかかる雛だと思う。それでもいいからそばに居たいと思ったんだもの。身を引こうとは思わない。でも、このままじゃ嫌。もっとあなたのそばに行けるようになりたい」

まわりに何て言われるか、気に病む段階ではないと思っている。
エリスの言う通り、二人の気持ちを考えてのことだ。

「焦らないようにって思ってるんだけど、でも、やっぱり……。もっと、あなたのそばに居たい」

自ら飛べないのだから、全面的に彼の力に頼るしかないとわかってる。
けど、そばに居たい気持ちが強かった。

「そうだね。どうすればいいか、二人で考えよう」
「うん」

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あきゅろす。
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