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短篇

真面目で我慢強く、口答えなんてできそうもないおとなしい優等生タイプ。
エリスの分析は正解だ。

「目を見ればわかる。男なら。それを好みだと思うか、都合がいいと思うかは男次第だ」

男性に甘えず自力でどうにかしようという姿勢が、ずるい男を増長させる。

「私は、相手がどんな人か見抜くなんてできない。でも、それはしょうがない。男運がなかったんだってはげまされたけど、私はその言葉が好きじゃない」
「何故?」
「相手のせいにして、逃げてる気になる」

ほらね、と。エリスは笑う。

「そこで君は、自分にも原因があったと考える。それが男をつけあがらせる。安心するんだよ。悪いのは自分だけじゃない。いいや。悪いのは君の方だと。君がすべての原因だと、なすりつける、逃げ道ができる」
「……そっ、そうだったの……?」
「そう。恋人ですらない、ストーカーという犯罪者にまで君の慈悲を与えるべきじゃなかった。ハッキリ言う。間違いだ。過ちだった」

しゅんと項垂れて、反省する。

「男には期待しないかわりに、責めもしない。そんな君に惚れてしまったら、屈折した卑怯な男は、どうやって君に惚れてもらえると考えるだろう。どうして存在を認めてもらえると思うだろう」
「エスカレートした……」
「そうだね。君の心を支配したくて、どんどん大きな行動に出る」

甘えない、頼らない。
何をしても手応えがない。
つまらないと言われた理由を悟る。

責めない、拒絶しない。
悪感情でさえもたらされない。
行動を過激化させた原因を知る。

「私だって……」
「ん?」
「私だって、何かに心を動かします。仕事が好きだったし、舞台を観るのも……」

目の前の人にも夢中だった。

「ストーカーはそれを全部奪って、そこに自分が居座ろうとしていた。そしてそれを成功させた、と、思ったかもしれないね」

奪われてしまった。
こわくて、こわくて。
舞台に立っていられなくなった。
そして、病んだのだ。

「毎日を、かろうじて生きてるの。今日は不思議と、とても気分がよかったの。天使が来てくれるって、多分、魂が感じとっていたのかも。だけど、こわくなる時がある。そうすると何もできなくなるの。ベッドで丸まって、こわいことが起きないように祈ってるしか……」
「君は今も支配され続けてる。だけど、よかった。僕は名前の通り天使になって、君をわずかでも救うことができる。ここに来て、君を癒やすためにできることがあったのが嬉しかった。みこ。僕はずっと君の天使で居るよ」

彼が、わざわざ自分を救うために来てくれた。
信じられないような、贅沢な事実。
なのに、欲深くなる。
彼に優しい言葉をかけてもらって、癒してもらって、まだそれを聞いていたいと思う。

「離れてる時も、僕の心は君のもとにあるからね。悪夢に支配されそうな時はそれを思い出して。君の心を支配するのは僕であってほしい。僕が、みこにすてきな夢を見させてあげる」

ドラマや映画の中でも言ったことない、甘くとろける様なセリフ。
フィクションの中でしか通用しないと思っていたのに、エリスが言うとどうしてあっさり翻弄されるのか。

「エリスは、どうして本格的なラブストーリーをしないんですか?こんなにすてきな夢を、私だけが楽しむのはもったいないです」
「おや。僕は目の前のたった一人のためだけにラブストーリーを演じるような安い口説き方はしないけどね」

演じてくれているのでなければ何だというのだろう。
それも、演技のひとつ?

「君がこれまで出会った男達と、僕は違う。僕なら卵をあたためて雛をかえそうとする様に、優しく抱き締めて“その時”を待つ。雛じゃないならつまらないと見限ったりしないし、早く出て来いと卵を割ろうとするなんて乱暴なこともしない」
「ひな……?」
「だけど、僕が見つけたたったひとつの卵は、殻の中で既に僕に“起こして”って鳴いてるけどね。刷り込みを越えてる。愛しい、僕の雛」

逃げ場を失い、熱い視線にとらわれる。
信じられないのは、こわいからじゃない。
理由が、無い。
“こう”なる理由が、わからないのだ。

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あきゅろす。
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