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短篇
14
教室のお休みを告知するのに、理由を述べない訳にはいかなかった。

通うと決めて早々に幸運に見舞われた新メンバー二名は、ジュリオに会うことができてからより通うことに意欲的になった。
来続ければまた会えるという明確な希望がそうさせるようだ。
誰と……と言わずとも、彼女達の頭にはジュリオのことしかない。
バカンスに行くと聞いただけで「私もジュールとバカンスに行ってみたい」と盛り上がり、何処に行くの?どれくらいの期間?と興奮気味にたずねた。
期間はともかく、行き先は秘密だそうなので答えられない。
それを「いいなー」と羨み、ロマンチックだとはしゃぐ。

「ツバキ、楽しみじゃないの?」

胸の奥でずきりと痛みが走ったのは、彼女の疑問が的を射ているという証だ。
咄嗟に答えられないと、どうして?と悲しげに眉を寄せる。

「何かあったの?」

まさか親身になって聞いてくれるとは思わなかった。
だから不安が顔に出てしまうのをコントロールできなかった。

「話してみてよ」

差し伸べられたあたたかい手を、心からありがたく思った。

「ありがとう。だけど、答えはわかってるの。私が頑張らなくちゃいけないことだって」
「ツバキ。解決することができなくたって、話を聞いて少しはあなたの気が楽になる助けにはなれるのよ?」
「ジュールを信頼してるなら、一人で抱えずに話してみる方がいいと思う。揉めたっていいじゃない。それを乗り越えて絆を深めるもんよ」

彼女達の話を聞いたら勇気づけられて、少し前向きになれた。
とは言いながらも結局話せないのは、せっかくのバカンスの前に問題の種をまきたくないからだ。
自分のせいで彼をわずらわせることばかりで嫌になる。
大なり小なり、こういうことがこれからも続いていくのだろう。
彼に失望されたくない。
味方だと言ってくれて、自分もそのつもりで居たけれど、不本意にも彼を裏切るかもしれないのだ。
それをわざわざ彼に言ったってどうしようもないことはわかっている。
自分が学んで成長しなければならないとわかりきっているから、慰められ、甘やかされたいがために彼に打ち明けるつもりはない。
ただ二人の信頼関係のためにいずれ報告はしなければならないだろうが、それは今すぐじゃなくてもいいと思っている。
少なくともバカンスの間は胸の奥にしまって、彼と過ごす時間を楽しみたい。


「ねぇ……バカンスで着る服を、ジュリオに決めてもらいたいの。いーい?」

彼と過ごす初めてのバカンスだから、彼に喜んでもらえるような格好で居たい。
自分で選ぶ自信がないから彼に決めてもらった方が……と考えたが、そこまでの面倒を手間に感じないだろうかと少しの不安を抱く。
それがうつむいてチラリと上目でうかがうという仕草に出る。

「もちろん。喜んで」

笑顔を見るとほっとして、こちらまで嬉しくなる。
椿の笑顔は彼が生むのだ。

「行き先を知ってるのは僕だからね。それに合わせたステキなコーディネートを考えてあげる」


ジュリオは選んだ服やくつなどを詰めた大きなトランクを完成させると、出発前にそれらを予定している宿泊地へと送った。
二週間に及ぶ休暇で着る服をまるまる任せて決めてもらって椿としては安心だし嬉しいことなのだが、一般的には「ちょっと変かも」ということらしい。
今まではコンプレックスに感じていたことも、理解者である彼から聞くとくすっと笑えた。

「ほら、よく言わない?こっちとこっち、どっちが似合う?って聞いてるけど実は自分の中で答えは決まってるって。ハズレを選んだら機嫌を損ねるだろ?ツバキは僕を信頼して最初から全部任せてくれるけど、僕がプロだからこそ口を出されると余計に腹が立つってこともあるんだよ」

ジュリオ・ファリエールの指摘ならば正しいと知っているだけに、一方的な負けを突きつけられるのが腹立たしくなるのだ。
女性としてのプライドを傷付けられ、辱しめられるのが我慢ならない。

「だから僕が求められてるのは、コーディネートしてあげることじゃなくって彼女が選んだ好きなものを何でも買ってあげること」

信じられない思いで本当?と問うと、ジュリオは当然と言わんばかりに頷いて認めた。
椿が喜ぶと思って沢山買おうとしたジュリオの気持ちが理解できた。と同時に、椿なら自分の選ぶもので飾れるという欲求が更にそれを煽ったのだとも理解できた。

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あきゅろす。
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