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短篇
13
「災難ね。ドロボウに入られたんですって?大変だったのよ?急に“ツバキが〜”って騒ぎだしたと思ったら私たちにあとを任せて行っちゃうんだもの、ジュールったら」

ああ。とか、はぁ。などと弱々しく声をもらす相づちが情けない。

「恋人を大事にするのは全然かまわないのよ。ただ、あなたにその価値があるかしら?」

色の無い表情が凍り、ひきつりそうなほど顔面の筋肉が強張る。
咄嗟の反応で起こるのは恐怖だった。

「今回は彼には珍しく純情なタイプを選んだみたいだから、手がかかるのはわかるの。きっとそれを楽しんでるんだと思う。だけど世間知らずでは困るの。彼のパートナーだったら賢くなきゃ。それがジュリオ・ファリエールのパートナーとしてのたしなみ。覚悟じゃないかしら。あなたは私たちの業界についてどころか、一般的なオシャレってレベルさえ知らないんでしょう?あなた少しは努力してる?彼のパートナーとして、彼に釣り合う努力を常にしないと。あっという間に置いていかれる。どう?自覚が無いなんじゃない?」

返す言葉もない。
彼女の主張は至極真っ当で、うつむくしかなかった。

愛だけで乗りきれることには限界がある。
無知なパートナーはいずれジュリオに傷を与えることになるだろう。
華やかなパーティーやゴシップを経験して知ったはずだったのに。
椿の失態や醜聞は彼の顔に泥を塗り、足を引っ張る。
ジュリオへのダメージはブランドイメージに影響し、会社の損害に繋がる。
そうなれば彼女だって他人事ではないのだ。

「ごめんなさい……」
「ちゃんと考えておいたほうがいいと思う、彼とこれからどうするか。彼に夢を見て付き合ったかもしれないけど、現実は甘くないから。あなたはあなたを幸せにしてくれる人が他に居ると思うもの」

彼の大きな愛の中で大切にされて、守られて安心感を得て。
彼からは沢山のものを恵まれた。
その分のものを返せているかはわからないけれど、彼の一番近い場所で味方になれているという自信があった。
しかし自分が彼にとっての弱点になるのだと。足枷になってしまうのだと突きつけられのがショック過ぎて言葉が出ない。

彼女はにこりと美しい微笑みを残し、鍵を絡ませた長い指でひらひらとさようならの挨拶をして去った。
そしてまた失敗をおかしたことを悟る。
何も反論できなかったのは自分がいたらないからだからしかたない。
けれども椿のこれからに彼との別れなどないことぐらいはしっかり主張しておくべきだった。
彼のために頑張りたい気持ちがあると表明しておくべきところだった。
とことん情けない自分に落ち込む。

ノートに書くにもまとまらなくて、悩んだあげく一言も書けなかった。


一緒につくった夕食を食べている途中。

「ねぇ。バカンスに行かない?」

唐突な提案に目を丸くした。
ツバキには酷な注文かもしれないけど、仕事はちょっと休んでさ。と、楽しげに。

「あなたとのバカンスは嬉しいし、仕事を休むのも構わないけど……。突然だから、びっくりして……」
「決まり!ツバキを連れていきたいところがあるんだ。驚かせたいからまだ秘密だけどね。きっと気に入ると思うよ」

行き先は何処でも、彼との旅行だと考えるだけでもう気分が浮かれて、表情がゆるんでしまう。
それを見たジュリオはホッとしたように、よかった。と呟いた。

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