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短篇

彼に依存したくないと意地になり、堕落したら……ととんでもない彼への侮辱を楯に逃避した。
変化がこわくて、それはまだ自分にはどうしても必要だとは思えないと言い訳を見つけて自分自身を納得させていた。
今ならわかる。

「ジュリオ。私……」

こわい時、つらい時、さみしい時に頼りたい。

「あなたと一緒に居たい」

御託はもういい。

「ただ、あなたのそばに居たいです」

頭で考えず、衝動をそのまま口に出してしまえば、躊躇うことなんてなかった。
好きだから一緒に居たい。
それが素直な気持ちだ。

「わかった。僕のところにおいで」

彼が居なかったら。もし彼と出会ってなかったら、一人ではつらすぎた。
うちのめされた後でどうしたらいいか考えることができたかわからない。
だから半強制的に言ってくれるのは助かった。

「よかったよ。どちらにしろ今日はうちに来てもらうつもりだったけど、これで僕も安心だ。泥棒が入った部屋に君をおいておくわけにいかないからね」

引っ越しの手配をしてから、ひとまず必要な荷物を持ってジュリオの家へ移った。
そして留守番をよろしくと言って仕事に戻る彼を見送った。


ジュリオは寝室は一緒だとの希望があったが、仕事のために集中できる場所が必要だということで椿の部屋ができた。
もとはゲストルームだというが、椿が初めて見た時、そこには三人掛けほどのソファーしかなかった。
友人や仕事関係の人がまれに泊まることがあるので、一応ソファーベッドだけ置いているという。

暇な時間ができても何もすることがなく、部屋に居ても何もないので、ジュリオの本棚からリビングに何冊か本を持ってきた。
ただ活字を読むほど集中できそうになくて、自然や動植物の写真集があったのでそれを選んだ。
しかし字について考えるのは癖になっているのか、やめられない。
雪景色を見れば雪、世界遺産の聖堂を見れば神、と。連想した文字を頭の中で書いてみる。
すると実際に書きたくなって、部屋にあったメモ用紙に愛用の万年筆で思い浮かぶ度に書いていった。

写真集にも字の連想ゲームにも飽きると、サンドイッチをつくって夕飯にした。
あるものでつくってちゃんと食べるんだよ。と、念押しして行ったから、フルーツだけつまむわけにはいかず、トマトとハムとチーズでサンドイッチにしたのだ。
ジュリオの分も余計につくったが、外で食べてきて要らないのなら明日の朝ごはんにすればいい。


することもなくなって、早く帰ってこないかな……と心細くなった時。
「ジュリオ」に漢字をあてるなら何だろう?と、ふと考えが浮かんだ。
すると途端に楽しくなって、転がっていたソファーからばたばたと起き上がってメモを広げる。

“ジュ”だと「寿」や「樹」か。
“リ”なら……と順に書き出していき、漢字の意味を考えて組み合わせていく。
勝手なイメージや好みで最終的にかたまったのは「樹理緒」
これでハンコを作ってプレゼントしたら喜ぶだろうか?
そんなことをしている内に、いつの間にか眠っていた。

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