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短篇

両親が離婚することになった時、私は
父と母どちらかを選べなかった。
どっちも好きだったし、三人一緒に暮らしていけるのが一番だったから、どっちがいいとかどっちに着いていくなんて言えなかった。
何より、言ってしまえば必ずどちらかを傷付けるとわかっていたから。
私はどちらも選べずに、結局どちらにも見捨てられたのだ。

女の子だし、連れてってと言わない娘を無理に連れていくのを父は躊躇ったのだろうと思う。
そして母は、自分を選ばなかった娘を可愛くないと思ったのだ。
ここをきっかけに、母も、私の生活も大きく変わってしまった。

まず、母はよそよそしくなり、私と距離をおくようになった。
私はその時、私が母を選ばなかったから母を傷付けたのだと察した。
気まずいまま過ごすのは苦しいので、自分なりに勇気を出して母が好きだと示してみたが、事態は既に手遅れだった。
母は私を鬱陶しがり、迷惑そうにあしらい、やがて罵るようになった。
特に母が再婚し、妹が生まれるとそれはより色濃くなった。
私は一人、邪魔者になった。

あの時母を選んでいたら。
もしくは父を選んでいたら、こんな事にはならなかったろうと思う。
私は選択を誤った。
母は私を憎らしく思うようになり、目に入る度に嫌味を言った。
新しい父はそういう意味では母と気が合ったから、味方にはなってくれなかった。
そんな二人を見て育った妹が私を蔑むのは当然で、私をかばってくれた事も、陰で慰めてくれた事も一度も無い。
彼女は心から、私を軽蔑していた。
だから。
だから誰も“それ”を疑問に思わなかったのだろうし、最後まで迷い無くこれたのだろう。

“それ”がいつから始まったのか、正しくはわからない。
ただ確かに、少しずつ私は蝕まれていった。

体調が悪い日がたまにあって、徐々に具合が悪くなり、薬を飲むようになると寝込むことが多くなった。
ベッドから起きられる日の方が少なくなって、私はやっと“それ”を怪しんだ。
私は毒を飲まされてるのだと。
それから薬を避けたって、体はすっかり衰弱していて、逃げ出す事も叶わない。
家族は私を邪魔にしていて、廃除する事に躊躇いも無い。

私はきっと、この家族に殺される。


朦朧とする意識。
力の入らない体。
いつ、毒を飲まされたのか。
けれどもう関係ない。
何の抵抗もできなくても、張り詰めた空気はわかる。

白いワゴンに乗せられて、運ばれていく。
不思議と怒りも悲しさも無い。
事態を淡々と、他人事の様に眺めるだけだ。

何処へ来たのかわからないけれど、私は道端に打ち捨てられた。
埃っぽい土の上に。
大量の薬と一緒に、ゴミの様に。

放っておいても死ぬと思ったのだろう。
彼らはゴミを処分して清々したと言わんばかりに、晴れやかに。楽しげに。すっきりした様子で帰っていった。
そこには、笑顔さえあった。

事実、私はこのまま死ぬのだと思った。
けれども人は、それでも生に執着するらしい。
あたりは人気の無い殺風景な場所で、助けを求めようにも誰も居ないし、そもそもそんな力も残っていない。
そんな中ですがれたのは、数匹の犬だった。
頭上に気配を感じて見ると、犬小屋があった。
うろうろと歩き回ってこちらを気にする犬に、重い腕をのばす。
彼らのエサでもいいから、分けてほしいとさえ思った。
それが毒だとわかっていて、薬を代わりに差し出そうと考えるほど、単純に生き延びる事しか頭に無かった。
けれど、意識はそこでぷつりと途絶えた。

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