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短篇
14
あごをとらえられて、うっかり見惚れていたことに気付く。
と同時に親指がそっと唇を撫でて、身動きがとれなくなる。
何か言おうと試みても震える息しか漏れない。
顔が接近しても何も考えられず、硬直したまま見ていた。
するりと頬と頬が触れ、両脇に差し込まれた腕が背に回る。

「はっ、ぅ……。ジュリオ……くるし…っ」

潰されてしまうと思うほどきつく抱き締められて、思わず声がもれる。

「ごめん、ツバキ。ごめん」

いくらかゆるめられた程度でも、少しは呼吸が楽になる。
すると余裕が生まれ、首筋に落とされるキスに気がまわる。
羞恥のあまり混乱して咄嗟に離れようと身をよじってもがくが、力でかなうわけもない。

「待って。こわがらないで。もう少し。これ以上君がこわがることはしないから。もう少しこのまま」

意味を深く考えず、言葉のままを信じてひとまず暴れるのをやめた。

「ありがとう」

暴れて乱れた体勢をととのえようと、様子をうかがいながら慎重に動く。
背を反らすと胸の圧迫が緩和され、息を吐く。
が、それでは自ら胸を押しつけるようなかたちになってしまい、慌てる。

「あの、ジュリオ…っ」
「平気だよ。ちゃんと我慢できる」

もう少し腕をゆるめてほしいと言おうとしたのを察したのか、遮られてしまった。

「暴走して君を傷付けるのは本意じゃないからね」
「あの……あの、ジュリオ」

我慢と言っておきながら、背中を手のひらが撫でるようにして這うのは何故か。
そんな戸惑いは無視される。
手が下着のホックに触れそうな位置に近づいて、あっと小さく声を上げてしまったのが恥ずかしい。
するとその辺りをわざと行き来させる。

「もうやだ」

首を振り、日本語で泣き言を吐く。
反応を楽しまれるのは構わないが、その羞恥に耐えきれなかった。
その時、急にぱっと解放されて、半泣きなのを見られたくなくて顔をそむけた。

「ツバキ、ごめん。嫌だった?やり過ぎたよ、本当に悪かった。君がかわいくて、つい」

髪をよけ頬を包んで謝る彼まで悲しげな顔をしている。
落ち着くまでうまく言葉が出なくて、それまで彼は手を握り、腕を撫でて慰めてくれていた。

「ごめんなさい。違うんです。私こそ、あなたを傷付けるつもりは……。ただ恥ずかしくって、取り乱してしまって……」
「そう?本当に?無理してない?」

こくこくと、ひとつひとつに頷いて答える。

「わかった。勉強したよ。これから僕には相当な自制心が要るようだ。気をつける。君の許しがなければハグ以上のことはしない」

何だか大変なことを強いているような言い方なのでいたたまれなくなるが、こちらとしてはありたがい。
その感謝の気持ちを伝えながら、頭には“ハグ以上のこと”という言葉が引っ掛かっていた。

「ん?なぁに?」
「え?」
「いや、君が今何か言いたげだったから」

気をとられたのがまずかった。
どうして彼にはそう簡単に気取られてしまうのか。

「あ……そんな……。言うつもりなんかなかったのに……。あまり見ないでください」

八つ当たり気味に言ったのに、彼は楽しげにくすくす笑っている。

「それで?なぁに?」
「いまだに少し戸惑うんです。ちょっと勇気が要るというか……身構えてしまうというか……。特に男性だと……。ハグをするのも緊張します」

彼は大きく溜息をつき、がっくりと肩を落とした。

「そうか……。君のシャイな性格だけじゃないんだね。これが文化の違いか」
「だけど!でもっ、嫌ではありません。びっくりして取り乱してしまったので説得力がないですが……本当です。ハグくらい慣れないと…!」

何でも彼に押しつけてはいけない。
甘えて、気を使わせてばかりなのは申し訳ない。
ここは自分の努力すべき範囲だ。
だからこそ言う必要がないと判断したのに、細かな変化もとらえられてしまうから困る。

“慣れないと”と言った言質をとって、それじゃあ訓練しなきゃと笑いながら、彼は懲りずに腕をまわす。
けれど約束通り、軽く抱き締める以上に触れたりはしなかった。

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