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短篇
12
にこにこと機嫌よく笑いながら見つめる眼差しも、髪を撫でる仕草も、すべてが愛情を伝えるものだ。
未熟な自分を正当化するために、彼の気持ちを利用しているだけかもしれないのに。

「それで、今のところ僕はどんな人だと思ってる?新しいヒントがあったよね?」

やはり面白がっているじゃないか。と思ったところで、じゃれて遊ぼうと思ったという彼の言葉がよぎった。
これはコミュニケーションのひとつなのだろう。

「お花屋さんじゃなくて……。立派な別荘と……バッグ!」

記憶を辿り、ヒントをつかまえる。
このバッグを持ってるなら彼を当然知っているはずだと彼は思ったのだ。
彼は、椿が答えを模索するのを楽しんでいる。

「じゃあ、ここのお店でバッグを売ってる人?」
「直営店の販売員?」

適切な言葉に言い直してくれた答えに頷く。
が、ハズレだ。
首を振るのを見て、椿は再び考え込む。

「それじゃあ……。あっ、バッグをつくってる、職人さん?」

彼は椿が本当に自分を知らないんだと面白がって笑い出した。

「がんばって。お花屋さんよりずっと近づいてきてるよ」
「じゃあ、この会社の人っ」

むぅっと唇を尖らせてなげやりに答えると、彼はだめだめと指を振った。

「答えが広すぎる。もっと絞って。ほら、今のもヒントだ」

椿が拗ねて挫けそうになると、すかさずフォローしてくれる。
その優しさに、椿はふっと頬を綻ばせた。
絞ってということは、答えはその中にあるということだ。
販売員は違うと言うし、他に何が?と考えたって椿にはもう挙げられる答えがない。

「いいんです。そのうち自然と知るようになるでしょう?」

急がなくてもいい。
すると彼はそうだね。と微笑んだあとで、悪戯な顔を見せる。

「そうすればまたこうして君と遊ぶことができるしね」

それには椿も吹き出してしまって、彼と一緒に笑った。
それは、二人が同じ気持ちなんだと思える出来事だ。
些細なことかもしれないけれど、椿にとっては小さな感動だった。


「おいで」

彼が自分の膝を叩いたのを見て、椿はまさかと驚いた。
だがその微笑みはここへおいでと誘っている。
戸惑い、羞恥もあり、困って首を振る。
しかし彼は許してくれず、微笑んだまま椿が来るのを待っている。

腰を上げ、おずおずと歩み寄る。
腹の前でもじもじと指を絡ませ、どうしたらいいの?という視線を彼へ投げる。

「平気だよ。君を落っことしたりしない」

おどけて笑った彼は、椿の緊張をほぐそうとしてくれているのだろう。
指を解き、ゆっくりと手をのばしてみる。
迎えに来てくれた手がそれをとると、慎重に引いて距離を縮める。
椿の左手を彼の首に絡ませるように導き、膝に座らせる。
彼の右手が腰に回り、左手で椿の前髪をすっと横に流す。

「ツバキはとっても軽いね。羽根の様だよ」

片足に人一人を乗せているので、さすがにそんなわけないと椿は首を振った。
謙遜したつもりはない。
いくら体格差があるといっても、重いに決まっている。

「いいや。君は華奢でスレンダーだから、抱き上げてってねだられても何の問題も無い」

あんまり動くと負担になりそうなので、されるがまま。座らされたまんまじっと抱きついている。
なのでこうして密着していると、頑丈な筋肉が覆っているのがわかる。
椿が座ってもびくともしないのは本当に思えた。

「キレイな肌だ。きめ細やかで……なめらかな……」

言いながら、大きな手のひらで頬を撫でる。
椿はゆっくりと瞬きをして、吸い込まれるように彼の目を見つめた。

「君はそのままで十分美しい。虚栄心が無く、飾り気の無い君らしい。内面から来る美しさだ」

椿は照れ臭くなって目を伏せた。

「僕が君を守ってあげる。君が困難だと感じることで僕にできることがあるなら、僕は何でもしてあげたい。これから僕のせいでたくさん戸惑うことがあるだろうけど、その贖罪のつもりなんかじゃない。それだけ君を大切に思ってるんだよ」

彼は、椿が真実を知って動揺することを心配している。
椿が彼に失望されることを恐れるように、彼もまたそうなのだ。
その思いを悟り、椿は彼のシャツを握ると、そっと身を寄せた。

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