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短篇

「君はフランス人?どこか混ざってる?」

自然に聞くから、椿も何も引っ掛からずに答えた。

「半分はフランスです。あとは日本とアメリカが四分の一ずつ。だけど日本で生まれ育ったので中身は日本人です」

彼は、なるほどね。とくすっと笑った。

「神秘的で、不思議な雰囲気を持ってるように感じたんだ。何ていうか、日本人ぽいよ。そう、中身がね。それが雰囲気に現れてるんだ」

椿は何も言ってないのに、彼は悪い意味じゃないよと説明する。

「僕は日本が好きなんだ。だから不思議な運命を感じて驚いてる。日本の物も沢山持ってる。伝統的なものから新しいものまで。日本は不思議で、刺激的なんだよ。僕を楽しませてくれる」

いきいきと語るのを見たら、彼が本当に日本が好きなんだというのが伝わった。
日本を好きだと言ってくれるのは嬉しいし、母がそうだから親日家の人には親近感も抱く。
最早、名乗るのは自然な流れだった。

「私、書道家なんです。日本とフランスで活動しています」
「書道!あぁ、だからカンジの本を読んでるんだ!すごい!感動的だ!」

素晴らしい!と喜ぶのに気圧されながら、最近ようやく教室を開けるようになれたことを言う。
と、大変興味を持ったようなので招待した。
こうしたきっかけでより日本や日本の文化に興味を持って、好きになってくれたら嬉しい。
例え教室に来なくたって、僅かな時間を気持ちよく過ごせたからそれでよかった。
バッグのことも聞けたし。
しかし、彼は後日本当に椿の書道教室に来てくれた。


小さなカフェだったところを改装せずそのまま使っているので、カウンターの他に二人掛けのテーブルが三つ並んだらもういっぱいだ。
壁には椿の作品を飾っていて、外から覗いて
気になった人が居れば見学だけでも歓迎している。
今はありがたいことに三人の女性が生徒として通ってくれている。
墨で汚れた道具や手を洗うのにも、生徒さん達にお茶を出すのにも、カフェだったのは都合がいい物件だった。

彼が訪れたことに気付いたのは、生徒さん達が声をあげたからだった。
三人が三人とも興奮ぎみに早口で喋るから完全には聞き取れないが、まさか!とか、会えて幸運だというようなことを言っているのだけはわかった。
もしかしたら有名な人なのかな?とよぎったくらいで、椿は特に気にしなかった。

「こんにちは。本当に来てくれたんですね」
「もちろん。約束したからね」

爽やかに微笑んだ彼は、ねぇねぇとまとわりつく女性陣をしぃっとたしなめる。

「何か飲まれますか?コーヒーか、紅茶か。緑茶もありますけど」
「緑茶?いいね!それがいいよ」

緑茶と聞いて彼は声を弾ませた。
じっとお茶をいれるのを見ていたが、女性陣に負けてテーブルへ連れて行かれてしまった。

彼は声をひそめて彼女達に何事か囁いたが、それを軽薄だと非難する筋合いはないし、不快に思う理由もない。
多少の疎外感はなくもないが、お茶をいれる役割があるのだからそこまで強く思う必要もない。
彼女達が怪訝な顔をして、または不満げに椿を一瞥したように見えても、椿は必要以上に深く考えなかった。
きちんと自分の中で理由を見つけて、傷付かないために都合のいい正当性を確認して無関心を貫く。

「お茶、はいりました」

感情を切り放し、目の前で起こる現象を認識する。
臆病で矮小な、心の醜さを自覚していても。
それでも自分を守りたい、ずるい人間だ。

「ありがとう。君にいれてもらうとより日本らしさを感じられて感激だよ。カップまで本格的だ。これは日本のものだよね?」
「えぇ。日本の湯のみです」

澄んだ緑色のお茶を味わうと、彼は嬉しそうに日本について話し出した。

「僕は日本に行った時に茶道を経験したんだ。緊張したけど、すごくいい経験だった。座禅の様な修行と似てるけど、芸術でもあるよね。あ!あと抹茶の前に食べるあのお菓子はとっても芸術的だったよ!食べてしまうのがもったいなくて、そのままお土産に持って帰りたいくらいだった」
「それなら、食品サンプルは知ってますか?レストランに並んでたでしょう?探せば和菓子のもあるかも」

外国人が日本のお土産に寿司の食品サンプルが人気だと聞いたことがある。
すると、にこやかな彼の表情が更に輝いた。

「ああ、知ってる!そうか、食品サンプルならとっておけるね!」

よほど和菓子が気に入ったのか、彼は本気でネット通販で探してみるつもりらしい。

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あきゅろす。
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