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短篇
17
「例え何が起きたとしても、私はレオ様とご一緒できればそれで幸せなんです。きっと無鉄砲で、酷く無責任だと思われるでしょう。ですが今の私にとって、それが一番重要なことで、大切な真実です」

ほんのり頬をゆるめ、そしてすまなそうに眉を動かす。

「私なりに、考えました。いざ私が状況に耐えかねた時、無知を理由にレオ様に価値あるものを置いて行くことを求めて良いのか。それは、許されないことであろうと思います」

ヘレンは盲目ではない。
レオに告げられた覚悟を、言葉のまま何も考えずしまいこむことをしなかった。
そこから考えて、自分に何ができるか。何をすべきかを模索したのだ。

「ご不快に思われるでしょうが、私はここで領主様たるレオ様とご一緒したいのです。領主家に恥じぬよう、レオ様や皆様にご迷惑にならぬよう努力します。あつかましいかもしれませんが、レオ様に相応しい伴侶になりたいんです…っ」

感情が込み上げて声を詰まらせると、レオは優しくその背を撫でた。
か弱い彼女を守ってあげたいと思っていたが、聡明なヘレンはただ守られるだけの女性ではなかった。
二年も彼女を見つめていたのに、まだ知らない魅力があると知った。

「おばあ様」

こんなに頑張っている彼女を、そしてこれから頑張ろうとしている彼女を認めてほしい。
そんな気持ちをこめて訴える。

「噂通りの人だわ」

そうすると思ったが、やはり事前にヘレンについて調べたのだろう。

「清廉な人ね。珍しいほど。騙されてるのではと思ったけれど……」

ちらりとレオを一瞥して、続ける。

「私は、計算して体裁を取り繕うような姑息なマネは嫌いなの。上辺だけの人間は薄っぺらいわ。真面目な働き者で、その正直さがあれば、当主の妻として認めてもいいくらいになれるでしょう。姑息な技術を覚えずに、逃げなければ……ですけどね」

“らしい”仮面を繕わず、芯から相応しい人間にならねばならない。
その素質を認められたのだ。と、思う。

「がんばります!」

ヘレンはぐっと涙をこらえて誓った。
するとおばあ様は微笑を浮かべた。

「ありがとうございます、おばあ様」

レオが礼を述べると、じろりと視線を寄越して息をつく。

「まぁあなたは、いつまで結婚しない気かしらと思っていたけれど……」

レオは苦笑して、すみません。と謝る。
叔父と違いおばあ様はあまり口出しをしなかったが、心配をかけていたようだ。
叔父が責める分、気を使ってくれていたのかもしれない。

「それにしてもまったく可笑しいわね。女性選びのコツはあなたのお父上から教わらなかったでしょう?本当、似たような人を連れてくるんだから」

呆れたような口調に笑みを含む。
レオは口を開けたまま、今の言葉を反芻した。
そして理解すると、嬉しくて泣きたくなった。

「レオ様……」

見ると、そっと腕に触れたヘレンも一緒に泣きそうになっていて、レオは可笑しくなった。
ふっと吹き出して、大丈夫だよと頬を撫でる。

「君は本当に両親のことでは泣いてばかりだね」

甘い微笑みに優しい仕草。
愛しいと語る眼差し。

それを注がれる清麗な人。

それは誰の目にも幸せに満ちた光景に映った。

「おめでとう、レオ。ヘレンさん」

祝福の言葉を送ったのはミレイユだが、その場の人間に異論は無かった。

祝福を受けた二人は、幸せそうに微笑みあう。

「ヘレン。僕のりんご」

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