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短篇
幻想記聞
悪い事の後にはいい事があり、いい事の後には悪い事がある。
僕はいつもいい事が起こる度、その後に起こる悪い出来事を恐れる。

「それじゃ幸せになれませんよ」

僕はある小説家の家に居候している。
彼は血も繋がらない僕を引き取り学校にまで通わせてくれている親切な人だ。

「もっと素直に甘えてもいいんじゃないでしょうか」

遠矢(トオヤ)さんは僕が気を使わないようにと名前で呼んでいいと言うけど中々慣れない。

「じゃあパパって呼んであげたらどうです?きっと喜びますよ」

僕が考えている事は全て後ろの人に筒抜けだ。
悪い事は考えただけでも叱られる。

「当然です。魂の上では思ってしまったら実際にやってしまうのと同罪です」

こうやって考えている事に反応しているのも僕についている守護霊様の一人らしい。
僕の命が危うい運命にあるとかで、より強力に守る為にこれまで担当していた人と交替し僕を守ってくれる人だ。

「貴方に生きて欲しいんです」

僕はその人達を後ろの人と呼ぶ。
優しくてやわらかい、温かな空気をまとった後ろの人の一人は長い黒髪の着物の男の人だ。


どうして声が聞こえるの?
どうして姿が見えるの?

どうしてこんな僕が“わかる”ようになったの。

そんな疑問を抱いた僕に彼は言った。
貴方が生きる為だ、と。

ねぇ。
例えば僕が生き延びて、それが役に立つのかな。

「生きる事に価値があるんです。だから生きるんです」

ねぇ。
僕の意味って何なのかな?

「生きる事です。生きて自分の生きる意味を見つければいいんです」

ねぇ。
貴方や遠矢さんを意味にしてもいいかな?

自分の意志でどうしても生きたいと思えるまで、人の所為にして生きてもいいかな。

「それが貴方の生きる術なら」

泣くのには慣れてない。
いつも必死に迷惑を掛けないよう我慢してきたから。

泣きそうになると頭痛がして涙が引っ込む。
頭が痛くなる。

部屋に遠矢さんが入ってくる。

「薫(カオル)君、どうしました?」

泣いている事に驚いた遠矢さんは自分のシャツの袖で涙を拭ってくれた。

生きていていいのか不安になったなんて言えない。
遠矢さんは何も言わず泣いている僕を両手で抱き締めた。
きっとお父さんとかお母さんってこんな人の事を言うのかもしれない。

「真里(マサト)さん」
「あ、やっと素直に呼んでくれましたね」

僕を抱き締めたままふははと軽く笑う。
タイミングよく鳴った腹の音を聞き声を上げて笑う真里。
色々考えて泣いたらすごく疲れた。

「それだけでぐったりしていたらこれから身が持ちませんよ?」

え!?
遠矢さんの作ったオムライスで腹を満たし自室でごろごろしていると後ろの人が言った。

「これからって何か起こるの!?」

内心ドキドキしながら飛び起きて尋ねた。
しかし当然だが教えてもらえなかった。



彼には生きる意味がある。
多くの人の為に、何より自分の為に生きねばならない。
その為に私は異世界までやってきた。

いつか彼が手にする国を救うその日まで彼を支えるのが私の役目だ。


彼は知らない
幾多の光(チカラ)を秘める事を

彼を支えに生きる者が
存在して居る事を

彼は知らない 己の事を
彼の理由を彼は知らない



彼が世界を変え、世界が彼を変える。
私はその偉大なる宿命へ確かに向かう道程を見守るべく使わされただけだ。
世界も運命も、全てを動かすのは彼自身だ。

彼はまだ何も知らない。

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