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ドラゴン

今までの水場と何が違うのか。
エスは楽しそうに両手で指揮する様に、人差し指をくるくる動かしている。
川へ目をやると、水面にぴちゃぴちゃと水滴が跳ねていた。
水で遊んでいる。
リュウ達はふっと笑って、互いに顔を見合わせた。

遊びに満足してそこを離れた後も、まだ川に沿って歩いていく。
ざあざあという音は上流から流れ込むものだが、それから先は地下にのみこまれている。
蓋をされた川を辿って行った先には木々があり、その向こうに池が見える。
池の辺りは自然の姿がそのまま残されているようで、水も澄んで美しい。
それでピンときたエルはなるほどと呟いた。

「自然の水場を捜してたんですね」

エスが嬉しそうに遊んでいたところはまだ自然のままの土手が残っていたのだ。

「身を清める場所だ」
「知ってたの!?」
「何で黙ってたの?」

アキアとハルはリュウに詰め寄った。
大きな現象を起こす場合、身を清められる自然の水場が必要になるので、いざという時のために確認していたのだ。

「別に隠そうと思って黙ってたわけじゃない。ただ、お前達……。身を清めると聞いて何を想像する」

言われた二人と一緒にエルも想像してみて、“それ”を口にする。

「はだか……」

アキアはぎょっとし、ハルは赤くなった頬をぱたんと押さえた。

「お前達がアイツのストリップを見たいっていうなら俺は別に」
「わあー!結構です結構です!」

いくら聖女と言われていても、清廉な人だといっても、エスは同じ男だ。
別に男の裸を見てもどうということはないのだが、相手は龍神の御子である。
聖職者とは格が違う。
そんな人の神聖な儀式を目にすれば本来ならば不敬行為にあたる。
しかしエスはどの宗教にも入信していないし、正しい形式に基づいた儀式といえるような事をしているわけでもない。
だから見たって問題は無いのだが、アキアとハルは恐れ多いと感じてしまうのだ。
つまり冗談まじりに清めの儀式をストリップと言えてしまうリュウは、それだけ親しい関係であるということだ。

コートの襟をくつろげたエスは、ガルドストーンを取り出して胸の前で指を組んだ。
水色の聖石が発光し、髪がふわふわと風に揺れる。
光と共にうまれる風はコートをなびかせるほどになり、水面に波紋をつくる。
祈る形は朝晩行われるそれと変わらないのに、起こる現象が違うのが不思議だった。

「すごい……」

エルは圧倒された。
自然と共鳴するように聖石が反応している。
祈りを終えると、光と風が止んだ。

これで用が済んだかと思いきや、次は地図を開かず人にたずねながら歩きはじめた。
坂をのぼり、細い路地へと進む。
そこから更にもっと細い、建物の間の小道へ入っていく。
人がすれ違えるかどうかの狭い道で、薄暗い。
中を覗くと行き止まっていて、そこに小さなほこらがあった。
エスはそこへひざまずいて祈るが、石に先程のような反応はない。
静かに祈るその背中を、リュウ達は黙って見ていた。

坂道をのぼってきた老婦人は息を吐き、腰に手を当ててうーんとのばした。
路地へ曲がると、青年達の背中が見えて、珍しいと僅かに目を開いた。
老婦人に気付いて横に避けた彼らに会釈をし、前方へ目をやる。

「そんな……。夢じゃないかね……」

薄暗い中でさえ、その人は神々しく輝いて見えた。
特別な色を持つ髪も。けがれの無い純白のローブも。
彼自身が光を放っているように、きらきらと輝くような存在感。
老婦人はへなへなと座り込んでしまい、リュウ達に支えられて助け起こされた。

「大丈夫ですか?」

異変に気付いたエスが振り返ると、老婦人は言葉にならない声を上げて平伏した。

「驚かせてしまってすみません」

エスは明るいところへ出てくると、祈る時と同じようにすっと迷いなく婦人の前へ膝をついた。

「顔を上げてください。どうか」

エスは気を使ってそっと肩に触れるが、その優しさは逆に婦人をかしこまらせてしまった。
地面に擦り付けんばかりに頭を下げている。
どうしたら……と考えて、エスは胸の前でぱちんと手を叩いた。

「そうだ!このほこらへいらしたんでしょう?」

歌うように軽やかで、やわらかに弾む声。
それは、さらさらと流れる清水の様だった。

「信仰はどちらです?龍神様ですか?」

老婦人は平伏したまま、震える声で答えた。

「その通りでございます」

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