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ドラゴン

過ぎた事にとらわれては、悔やんで落ち込んでばかりいた。
だから変わりたくて、救われたくて聖女に憧れたのかもしれない。

聖女はこんな目にあってさえ、楽しい事を見つけて自ら道を切り開く。
そんな風にはなれないと思いたくなかった。

そういえば最近、誰かに感謝された事も無かった気がする。
けれどもしかしたら、いつも後ろばかり向いてたから気づけなかっただけなのかもしれない。

「ありがとうございます…!」

勝手な事をしたのに、それ以上に許されたようで感謝した。

「僕はね、君のような人の為に居るんだよ。必要としてくれる人の為に。むしろ、僕が君に生かされてる。だから僕こそお礼を言うべきなんだ」


外をうろうろしてたからか、目撃情報を辿ってリュウ達が公園へ辿り着いた。
するとエスは男と談笑していて、エルは勿論。リュウ達も言葉を失った。
さらわれた人物とは思えない、和やかな空気がそこにある。
一人で逃げ出してきたのか。
それとも男に助けられたのか。
そこに男こそが誘拐犯だという考えは無い。

「エス!大丈夫か!?」
「御子さま!ご無事でしたか!」

心配して探し回ったというのに、当の本人はけろりとしている。

「うん、大丈夫だよ」

大丈夫じゃないのはむしろ男の方で、素早く立ち上がるといきなり大声で謝罪した。
そこでリュウ達は悟り、驚くよりもエスに対して呆れてしまった。

「お前は……。自分をさらった犯人と公園で楽しくランチか!」
「聖女様を責めないでください!オレのせいです!聖女様はオレのために…!」

そこまで言って、男は自惚れ過ぎだろうかと不安にかられエスを窺った。
そこには、穏やかな笑みがあった。

「聖女様は、ただ……オレを救ってくださっただけです」

涙を堪える男を目の当たりにしたリュウ達は、エスがただ彼を説得して解放してもらうだけでなく、それ以上の事をしたのだと察した。
一体どうすればそんな事ができるのか。
いや。きっと方法じゃなく、エスという人間がそうさせるのだろう。

「いいえ。ただ救っただけなんて」

包むような優しさを与える声色で。
優美な表情と仕草で。

「僕も、一緒にランチを過ごせてとても楽しかったから。ありがとう」

聖女は迷い子を救う。

「貴方に、神のご加護があるように」


エルは、また“主人”に電話をかけていた。

「凄い方です。計算じゃない。思うまま、心のままになさる事がきっと人々を救っている。本当に、不思議な方です」

環境が彼をそうしたのか。
それとも『御子』がそうなのか。

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