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ドラゴン

十字騎士団は、教会直属の修道会で、各地に支部がある。
本来は修道士だが、騎士として戦う僧兵の団体だった。
彼らに対し、エス達を密かに警護しているのがフォールスを本拠地とする青薔薇騎士団。

太陽十字がフォールスを支配してエルダイムの領土とし、異教を弾圧してきたように、双方は相容れない。
いまだにフォールスで青薔薇信仰が根強い事が、エルダイムの不安材料だ。
女神ローズの加護を得てフェルウォーレスというかつてのフォールスを守っていたように、エスという新しい正当性を得て独立運動を起こされたら困る。
『龍神の御子』であるエスがフォールスにつけば、神々が後ろ楯になってくれたという事。
神々の名の元に立ち上がったフォールスとの紛争になりかねない。

エルダイム政府にとって、エスは非常に目障りな存在だ。
フォールスの人々を煽動し、国の分裂を引き起こす異教の信徒は脅威である。
だから軍ではなく、宗教騎士団が動いているのだ。
しかしエスは国民からの人気や支持がある程度あるから、表立って批判するにはリスクがある。
女神ローズや聖女エセルの最期がわかっていないように、密やかに歴史をなぞればいい。
青薔薇を刈り取るハサミは、息を潜めて執行される。

エスは争いを起こさないために、必要以上に青薔薇と密接な関わりを持たず、太陽十字教会とも平等に付き合っている。
そういう環境で、そうやってエスは生きてきた。


「そろそろ、わかる年かなとは思ってたんだ。もう幼い子供じゃないし、自分で物事を判断出来る。だからいざという時、生きる事を選ぶように言っておきたかった」

有無を言わせぬ力強い笑みで、エスは二人に言い聞かせた。

「君達なら、わかってくれるね?罪の無い人間まで、共に逝くことはないんだから」

二人が頷いてくれた事でエスは安堵した。
膝の上で指をもじもじと動かしながら、ハルは上目遣いでエスを見た。
エスはにこりと微笑み、首を傾げて話を聞く姿勢を見せた。

「エスが僕達に話してくれたのって、あの、エルっていう人に会ったから?」

アキアもエスを見つめて答えを待った。

「そう思った?リュウにもそう聞かれたよ」
「違うの?」
「いや。まぁ、それがきっかけではあるかなぁ」

アキアとハルに緊張感がはしったのに気付き、エスは首を振った。

「エルは最初から疑ってなかったよ。十字騎士団の手の者なら、青薔薇が動くだろうし。注意すべきなら事前に使者が知らせてくれると思う」
「今までもそうだったの?」
「そう。今日は多分、君達に少し踏み込んだ話をしたから、解禁だと思ったのかもねぇ」

もしくは、それほど急ぎで知らせるべきだと思ったか、だ。
しかしそれは二人にはあえて話さなかった。

「それにエルは、わざと気付かれるようにしてたんだと思うよ。青薔薇騎士団にも、僕達にも。十字騎士団ではないと示したかったんじゃないかな」

そう言ったら、リュウには考えが楽天的過ぎると叱られた。
すべては憶測で、結果論でしかないからだ。
もしくは希望的観測。

「でもね?エルがもし十字騎士団で、二人が危ない目に合ってたら……って考えたら、急に言わなきゃって気になってね」

想像してしまったのだ。
何も知らないアキアとハルの前で急に殺されてしまったら、二人はどれだけショックを受けるだろう?
自分達に何か出来たのでは?と自分達を責め、悔やむ事になったらかわいそうだ、と。

「じゃあ、あの人が言ってた事はやっぱり本当でいいんだよね?エスのことすごく褒めてたから、いい人だって信じたいな」
「だけどご主人様が何者かわかんないってのが気味悪いよね」

リュウは彼らほど素直になれなかった。

ガルド人だろうというだけで、本気でアイツを信じるのか。
ガルド人を雇ってる主人の正体も狙いもわからないのに。
リュウがそう責めると、エスはさらりと言ったのだ。

『本当にその気なら、あんな目立つ工作なんかしないで、人目につかないようにサッと済ませるでしょ?』

それすら作戦だったらどうするんだ。
エスは人を信じすぎる。
それに気になるのは十字騎士団の動きだ。
もし、エルが青薔薇騎士団の目をかい潜るために寄越された十字騎士団からの刺客だったら?
エスはそれだけ、青薔薇騎士団の警護を信頼しているのか。


鮮やかな赤い衣装の道化は、大きな受話器に淡々と声を発した。

「ええ、お会いしました。本当に、驚きましたよ。ええ、すんなり信じてもらえました」

道化は主人の言葉を受けて小さく吹き出した。

「ご報告したい事が山ほどありますよ」

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