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ドラゴン

昼食をとる事にしたエス達は普通に席についていたが、庶民的な食堂ではエスが目立ち過ぎていた。
純白のコートにローブという法衣に似た格好はただでさえ目立つのに、それを着ている人間が衣装に意味を持たせる。
光にきらきらと輝くような天然の水色の髪も、聖女の生まれ変わりと称されるに相応しい相貌にも美しさと共に意味がある。

そこだけ澄んだ空気が流れている様な、気品と清らかさ。
それが日常的な生活臭のある環境では違和感を生むのだ。

常日頃から柔和な表情を浮かべている事も、達観した印象を人々に与える。
エスの私情を窺う事や、それが生む言動を知る事もアキアとハルでさえ難しい場合が多い。
エスが開示しなければわからないし、私情を悟らせないから知ろうとも思わせない。

今もエスは人々にチラチラと見られていても意に介せず。
優しい微笑を浮かべ、涼やかな声色を発している。

「美味しい?」

パスタをいっぱいに頬張るアキアとハルを見て、エスも嬉しそうにする。
が、リュウは口のまわりにソースをつけている二人を注意した。

サンドイッチを食べているエスのもとへトレイを持った店員が近づき、テーブルへケーキを置いた。
注文したものはもう来ているし、間違えだと言おうとしたが先に店員がにこやかに言った。

「店からのサービスです」

アキアとハルは素直に喜び声を上げて、またリュウに行儀よくしなさいと叱られた。
ケーキの皿を四つ、若い男の店員はエス達に視線を合わせるように腰を屈めて置いた。
そしてリュウ達が話している間にすっと顔をエスに近づけ素早く何かを囁くと、何事も無かったように挨拶をしてさっと離れた。

エスは何も無かったように、変わらずふわふわと優しい表情で会話を続けた。

「よかったね。今日のお昼はデザート付きだ」

アキアとハルはむしろ変わらない事に瞠目したが、冷静なリュウの目配せで空気を読み笑顔をつくった。

「アキアどれにする?」
「俺、アップルパイ。ハルは?やっぱ苺のタルトだろ」
「苺ー!」

リュウはエスと目だけで会話し、エスにフルーツタルトを渡した。

「きれい」

カラフルなフルーツのタルトにそんな感想を漏らすエスはやはりいつもと同じなのに、アキアとハルは内心で動揺し続けていた。

店を出てもすぐには何を言われたのかと聞けず、列車に乗ってからコンパートメントでやっとその話題に触れた。

「それで?俺達には言えない事か。それとも、二人には聞かせないつもりか?」

リュウは厳しく迫った。

「二人に覚悟しろとお前が言ったんだぞ」

危険が迫った場合、自分でも気をつけなさいと教えたのはエスだ。
相変わらず落ち着いた優しい空気を醸し出している事が、アキアとハルには異質に思えた。

「あれは青薔薇の使者」

語り口は穏やかだった。

「経済的な援助は断っても、安全面ではお世話になっているんだよ」

アキアとハルは咄嗟にリュウへ視線を向け、本当らしいとわかると互いに顔を見合わせた。

「今日はデザートまでご馳走になっちゃったけどね」

ふふっと笑うエスに、アキアは腹を立て怒りを滲ませた。

「笑ってる場合じゃないよ。どういう事?」
「アキア」
「だって、ハルだって知らなかっただろ!?」

ハルはアキアをいさめたが、言われると黙ってしまった。

「俺達がガキだから黙ってたのかよ!」

大事に思われるのは嬉しかったけれど、何年も行動を共にしてきた仲間だと思っていたのに大事な事を話してくれてなかったのが悔しかったのだ。
子供だからと言いながら、疎外されているような気がした。

「僕は……」

声のトーンがすっと落ち、纏う空気が冷えていく。

「君達を恐がらせたくなかった」

エスの感情が開示される。

「それは子供だからという事もあったかもしれないけれど、何より、君達が大事だから」

それまで真っ直ぐ注がれていた視線が伏せられ、膝で重ねられた手に力がこもる。

「だからこそ、あまり深く知りすぎて巻き添えにしたくはなかった。それに、僕が居なくても平気なくらいじゃないと、僕が居なくなった後の事が心配なんだ。君達には強く生きていってほしい」

まるでエスが先に死んでしまうような言い方だ。
二人はそう思い、そしてエスが話してくれた教えの意図に気付く。

エスは一体、どんな危険にさらされているというのか。

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