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ドラゴン

エスはおもちゃじゃないと叱られてしゅんとした子供達は素直に謝った。
するとエスは二人の頭を撫で、優しい声をかける。

「いい子」

ちっとも嫌な顔をせず、面倒がらず聞いてくれた上、ふんわりと笑って素直さを褒めてくれる。
それはエスが二人を無闇に甘やかしているのではない。
エスは二人が楽しんでくれるならそれでもよかったのだが、リュウがそれをよく思わないだろうともわかっている。
少なくとも注意くらいはすると思っていた。
二人は役割が決まっているのだ。

「いい事を教えてあげよっか?」

項垂れるアキアとハルに、エスは声を弾ませて言った。

「何?」
「いい事?」

エスが人差し指を立てると、アキアとハルはそれを注視した。

「水なら何でも自由に操れるわけじゃないんだよ」
「えっ!?」
「そうなの!?」

二人は、神秘の力を万能だと思っていた。

「水を出現させる事は出来るけど、それを沸騰させたり気体にする事は出来ないよ。ちゃんと実験したわけじゃないから今のところ、だけど」

より大きな現象を起こすには、それ相応の準備が要るのは二人も知っている。

「雨を降らせる雲を呼ぶ事は出来るけど、雪やひょうになるかまでは操作出来ませーん。僕は気温は変えられないからね」
「そっかぁ」
「知らなかった」

二人はふんふんと頷きながら、真剣に聞いている。

「降ってるものは雲を遠ざければいいから止ませられるかな。ただし、出来るのと依頼を引き受けるのは別。わかりましたか?」
「はーい」
「わかりました!」

リュウは、神秘の力説明会をしている三人を冷めた目で眺めていた。
しかしエスが「これは大事」だと前置きをすると、ちゃんと耳を傾けた。

「僕は、水じゃなきゃ自由に操れない。例えば氷とか雪、化学薬品だとか……。切羽詰まってどうしても必要な状況だったら頑張るけど、普段はとても難しい」

笑みが消え、引き締まった表情が二人に向けられていた。

「だから万が一、二人が僕にもどうにもならない状況に陥ったら、僕は君達を助けられないかもしれない。勿論出来る限り頑張るけど、何でも出来ると買い被ってはダメだ。むしろ僕に出来る事は少ない。いいね?厳しい事を言うようだけど、自分でもちゃんと気をつけておくんだよ?」

その深刻な教えを聞いたアキアとハルは言葉を失い、こくこくと頷くので精一杯だった。
リュウはそこでやっと、エスがこの為に「いい事を教えてあげる」と言い出したんだと察した。

「大変な事象を呼ぶ場合、準備が要るのは知っているね?」
「う、うん……」
「何かは知らないけど……」

エスはコートの襟をくつろげ、チェーンを引っ張りそれを取り出した。

「さっきみたいに水を動かす程度なら準備無しでも出来る。けれど、間違わないで。これは僕がしているのではない」

アキアとハルはその言葉の意味がすぐには理解できなかった。

「この力は僕のものではなく、神のものだからだ。いわば僕は器。神が僕を通して奇跡を起こす。僕はたまたま適した器を持っていたにすぎない」

エスが驕らず、謙虚なのは、ここに起因するのだとリュウ達は知った。
自分自身が偉いのでないと、立場をわきまえている。

「だからまずは、器を清めねばならない。出来れば自然の泉なんかがいい。禊だね」
「そう。だから新しい街に来た時なんかは、まずは必ず自然の水場を探す」

リュウが付け加えると、二人はそれにも驚いた。
そんな事をしているとは知らなかったのだ。

「僕は朝晩祈るけれど、それとは別に祈りを捧げたり、ガルドストーンに集中したり……。僕に出来る事であっても、そうやってすぐには叶えられない事もある。だから油断してはダメだ。僕は君達が大事で、守りたくて、そしてとても心配だから」

きゅっ、と。
悲しげに眉が寄ると、アキアとハルの胸もぎゅうっと締め付けられた。
話すと声が震えそうだったから、何度も何度も頷いた。
けれどリュウの視線は冷静で、何か言いたげだとエスは感じていた。

そして案の定。
二人になった時を狙いリュウは問い詰めた。
何故、急に二人にあんな話をしたのか?と。
二人には「話してなかった事がまだあったから言っておきたかった」と説明していたが、リュウはそれだけではないと思っている。

受け入れたようでいて、実はエルの事を警戒しているというのか。
知っておく必要がある。

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あきゅろす。
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