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ドラゴン
第三話 悔悛
こんな時も窓からやって来た黒蝶は、小さなイスに座りエスと向かい合っていた。

「先日は、本当に失礼しました」

頭を下げる黒蝶を前に、エスは逆に申し訳ない思いで居た。

「あれは自分のところで止めるべきでした。エスさんに相談してみると言ったのが間違いでした。本当に申し訳ない」
「いいんです、本当に。頭を上げて?」

エスは優しく気遣う声色で言い、黒蝶が頭を上げると微笑を見せた。

「いいんです」

ただの気遣いからではなく、本心からの言葉だった。
アキアとハルに過去を話すいいきっかけになったし、そのお蔭でより距離が近くなったと思うのだ。
エスが許してくれているのだと察して安心した黒蝶は、笑みを復活させた。

「そこでですね!お詫びと言ってはなんですが。報酬が大きそうな案件があるんです」
「今度は大丈夫だろうな?」

リュウは警戒して眉間にシワを寄せた。

「依頼主は解決してくれるならいくらでも出すと言ってるんです」
「いくらでも!?」
「やろうよ!」

アキアとハルは乗り気だ。
二人には経済的にいい思いをさせてあげられてないから、もし本当なら大歓迎だ。
エスとリュウは顔を見合せ、話を聞いてみることにした。


その家では、父の死をきっかけに相続争いが起きているらしい。
父の死因は心臓発作で、事件性は無いと判断されたのだが、長男が不審な行動をしていたのが見つかってから父の死に疑問を抱いたらしい。
しかし事情を聞く前に長男が姿を消してしまい、警察に相談する前にどうしても会って話したいという事だった。

黒蝶に話を通してもらって、後日エス達は依頼主の家へ向かった。


立派な門をくぐり、庭を抜け、大きな屋敷に招かれる。
夫人は丁寧に迎えてくれて、改めて事情を話してくれた。

夫の死後、長男の部屋から薬のビンが見つかった。
見つけた妹が調べると、量によっては心臓に負担がかかり過ぎてしまう薬だった。

長男は仕事が長続きせず、夫に叱られていたという。
どうせ遺産が入れば遊んで暮らせる……と言った事があったのもあり、まさかと思いながらも夫人が問い詰めた。
すると、長男は何も弁解しなかったのだ。
そしてそのすぐ後姿を消した。

「捜索願いは出してますが、警察にこの事は言ってません。まだ、あの子の口から何も聞いてないんです。私はあの子を信じたい…!」

夫人は目頭を押さえ、震える声で言った。

「せめて、あの子が生きてるかどうかだけでも…!」


初めに依頼の内容を聞いた時、黒蝶が何故エスの元へこの依頼を持ってきたか納得できた。
その微笑が引き締まり、緊張感が生まれるを見て、リュウ達は身が引き締まり、覚悟が生まれた。

夫人の話を聞いた後、エスは足早に屋敷を出た。

「行きそうな場所は捜し尽したなら、地道に聞き込みしかないね」

普段はのんびり穏やかで動作も優雅なエスだったが、今は鋭く力強い空気を放っていた。
動作も機敏で、アキアとハルはついていくのに小走りにならなければならなかった。

「僕が最初に出来るのはこれしかない」

これが、黒蝶がエスに期待した理由だ。
エスは、人の生死に誠実に向き合う。

エス達はあちこちの聖堂を回り、彼を見なかったか聞いていった。
父の死後間もないし、立ち寄るだろうと思ったのだ。
そうしてやっと一つの目撃証言を得た。


「何かお悩みでも?」

涼やかな声に顔を上げ、アレックスは瞠目した。
何度かこの教会に通っているが、こんな若く美しい神父は見た事が無かった。

「あ、いえ……」
「突然話しかけてすみません。思い詰めた顔をしてらっしゃったから……」

微笑を曇らせた神父は、断ってから隣に腰をおろした。
深呼吸をするように、ゆっくりと一つ、息をつく。
神父のまわりだけゆったりと時間が進んでいるような、この世の人とはちょっと違うように思えた。
それが聖職者というものなのだろうか。

「あ……」

失敗した。と、アレックスはすぐに後悔した。
神父様の黒髪が人工的なものと似ていると思ったが、カツラだと気付いてしまったのだ。
すぐに視線をそらしたが、気付いた事を気付かれてしまった。
アレックスは失礼をしてしまったと思ったが、神父様は優しく笑った。

「髪の色の事で、色々言われた事があってね」

語る口調は、穏やかだった。

「人によっては、見苦しいと感じるみたいで」

こんなに綺麗な顔立ちをしてるのに、髪の色だけで差別する人が居るのだと、アレックスは胸を痛めた。


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