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ドラゴン

エスは子供が好きだった。

「よしよし。いい子」

躊躇い無く、愛情を惜しむ事無く注ぐ。
だからストリートチルドレンだったアキアを放っておけなかったし、家族も家も失ったハルにすがられて置いては行けなかった。

エスは、愛情に満ちた人だった。
親も、愛情も、自分の事さえ知らなかったのに、優しすぎるほど優しい人に育った。
優しすぎて、自分の心を痛めるほどに。
だからリュウがそばに居て、ブレーキをかけて守ってやるのだ。

奔放で無邪気なところもあるけれど、繊細で、無垢な、優しく愛情に満ちた心を持っている。
エスが聖女様と呼ばれるのは、彼女と容姿が似ているだけが理由ではない。
そういった人間性が人々にそう言わせるのだ。

とはいえ、今回は女神ローズや聖女エセルに好意的な街だったから、エスにも好意的な人が多かっただけで、いつもこうとはいかない。
宗教で差別する者も居るし、よく思わない者も居る。
宗教に理解があってもエスに批判的な者も居るのだ。


安宿と言ったら失礼かもしれないが、エス達はいつも出来るだけ安いホテルを選んで泊まっている。
稼ぎも多くはないので、基本的には節約した生活を送っている。
今日の様にプレゼントを貰ったりする事もあるが、現金や高価な物は受け取らない。
けれど、ホテルや立ち寄る店などで代金を受け取ってもらえなかったり、値引きしてもらったりするのは好意として有り難く甘えさせてもらう事もある。
そうする事が、その人の親切心や信仰心を尊重すると思ったからだ。

女神の教会が旅の資金をすべて負担してくれるという話もあったのだが、エスはそれを断って今の生活を選んだ。
国をまわりながら人々の為に働く事がエスの仕事で、役割だから、教会からお金を貰う理由は無いと言ったのだ。

エス達はいわば便利屋業をしているが、エスに祈ってほしいとかエスの力に関する依頼はお金をとらないので、結局いつも厳しい生活だ。
困った時は宿代を節約し、聖堂や修道院で休ませてもらう事もある。

そんな生活でもアキアとハルはエスに救われたと思っているし、恩を感じている。
家も家族も無かった二人に希望を与え、安らぎを与え、愛情を与えてくれた。


貰った花を花瓶に飾ると、エスは花瓶に向けて手をかざした。
手のひらを上に向け、ゆっくりと持ち上げると、花瓶の中にこぽこぽと水が現れる。

それを見たハルはアキアとこっそり目配せし、感激の笑みを殺した。

「明日も晴れるね」

開けた窓から空を眺め、エスはそう予言した。
水を操れるように、エスには空の水の事もわかるらしい。

道行く人に下から声をかけられ、エスはにっこりと笑い手を振って応えた。

「こんにちは」

そしてまた、指を組み。

「神のご加護がありますように」



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