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Desert Oasis Vampire
10
体調を考慮してそろそろ……と促され、会はしぶしぶお開きとなった。
何処に居たのか、見計らったようにミセスディナが傘を手に現れ、それをフォードに渡す。

別れの挨拶をした後、少女達は放心してしまっていた。
何処からかやって来た車が止まり、それに乗り込む彼を呆然と見送る。
しかしその時、少女達ははっと息を呑んだ。
傘を掲げた執事が、よろめいた主人の腰を抱くようにして咄嗟に支えたのだ。
使用人が執事から傘を引き取り、かわりにその上に掲げる。

傘の影から現れたグレンはフォードに抱えられてぐったりとしていて、自力でというより運び入れられるようにして車に乗り込んだ。
走り去る車を見つめながら、少女達は心を痛めた。


フォードがグレンを寝かせて寝室から出てくると、ソファーにくつろいだ悪魔を見つけた。

「どうでした?“一番背が低い金髪の女の子”は」

リサに聞いたクレアの特徴だ。
アイラは赤い虹彩をあやしく煌めかせ、口の端でニッと笑みの形をつくった。

「ずいぶんいい子ちゃんだったな。白々しい」

両手を広げおどけてみせたが、鋭い瞳と怒気をはらむ空気を隠していない。

「ただし最後の一睨みは、さすがにガマンできなかったとみえる」
「やはりクレアの仕業でしたか」

グレンが体調を崩したのは、去り際にクレアが仕掛けたせいだった。

「クレア、ねぇ……。勝手な事をしてくれる。従順な飼い犬が」

アイラは憎々しげに言い捨てた。

「“アレ”の手綱は地獄に繋がってる。さっさとグレンを始末しないで番犬に見張らせてるってのは、まだ食えって合図がないからだ。誰の差し金か私怨か知らんが、ちまちまと手をつけやがって」

クレアがまだグレンに手を出せないのは本当なようで安心したが、ちょこちょこと嫌がらせのように仕掛けてくるのは余計な暴走なようだ。

「確かに、私怨があるように感じられましたね」

グレンの口を借りて、悪魔は『報いだ』と言った。

「シャインはそこまで、生まれ変わっても憎いかねぇ……」

敵が多かったシャイン。
生まれ変わった今でもまだ、殺したいほど憎み、消したい者が居る。

「グレンはもうグレンなのにな」

一番シャインの影を求め、グレンにシャインを見ていたはずのアイラが、別だと言う。
そして溜息まじりに呟いた言葉に、フォードは耳を疑った。

「何ですって!?」

笑みの消えた顔が、フォードへ向けられる。

「残念だ。本当に。“我が弟ながら情けない”」

おどけず、繕わず。
悪魔は真実を口にした。

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あきゅろす。
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