Desert Oasis Vampire
8
「普段どう過ごされてるんですか?街へはあまり来られませんよね」
「外へはあまり出ない。皮膚が弱くて、日に当たると火傷してしまうから」
傘や手袋の訳を知り、少女達は顔を見合せて頷きあい、真剣な眼差しを再びグレンへ戻す。
「体調が悪いこともあるし、なかなかね。フォードが許してくれないんだ」
ちょこんと肩をすくめ、冗談めかして言う。
二人に流れる穏やかな空気から、それが戯れだとわかる。
「青い顔で寝込む姿を見れば、無理してほしくないと思うのは当然でしょう」
フォードは深刻にならないよう軽い調子で返したのだが、少女達は感情移入して深刻にとってしまった。
そして体の心配をする。
正直に言ったって仕方ないので、原因不明の体調不良だと医者に言われたままを言った。
「倒れてしまうとしばらく寝込むことになるから、うさぎのルイが可哀想だ」
そう目を伏せたグレンからは、愛兎への愛情が感じられた。
ルイの事を聞かれると表情がゆるみ、ふんわりと空気も和らぐ。
「黒うさぎでね。街で初めて見た時、とてもびっくりしたんだ。うさぎが黒い!って」
フォードがプレゼントしてくれたと話し、視線を交わす主従に少女達はドキドキした。
くすくすと笑いあい、仲がいいんですね。と感想が漏れる。
フォードは微笑を固定したまま。
グレンはゆっくりと瞬きをしただけだが、薄く開いた唇からふっと息を漏らした。
「普通の主従からするとそうだろうけど。……ちょっと違うかな」
そんな明るく、平和的なものではない。
その絆はもっと暗い場所にあり、辿れば深刻なものである。
「ずっと閉じ込められてた部屋にフォードが来てくれた時、言ったんだよ」
それは間違いなく、救いの予言だった。
『お迎えに参りました。あなたをお救いする為に』
天使だと思った。
『私はその為にやって来たのですから』
そして何かある度に言うのだ。
『私はあなたの為にあります』と。
家族と思ってと言ってくれたフォードは、本当の家族より家族らしい存在だ。
「ただの世話係とは違う。いわば、運命共同体なのかな」
笑むでもなく悲しむでもなく、坦々と告げられた心に触れ、少女達はつらそうに笑みをつくった。
フォードは頑張ってすました顔をはり付けて堪えていたが、内心では動揺していた。
運命共同体という言葉に。
ずっと言葉の裏にあった、フォードの思いに気がついていたのだ。
いや。グレンがそこまで察してくれたんじゃなくても、そう思ってくれていたことが嬉しい。
自分が、グレンあってこその存在だと。
「ところで、あのうさぎ達は元気?」
前のめりの高校生の間から、中学生達へ問い掛ける。
こっちを見た!とでもいうように、彼女達は肩やひじで小突きあった。
緊張ですぐに言葉が出ず、こくこくと何度も頷く。
リサもグレンの前では緊張するが、皆と違って面識があるので、固まる友人達に焦れてお知らせしたい事を伝えようと口を開いた。
「グレン様がいらしてから、うさぎ達大人気なんです。今までは関心が無い人が多かったけど、ねっ?」
一人で喋って目立つと困るので、友人達にも話をふった。
「グレン様が座った席はスペシャルシートです!」
「専用のお席ですから、また、ぜひ!」
もこもこと動き回る姿を思い出し、自然とグレンに笑みが生まれた。
「また、あの子達に会いたい」
こんなことなら写真を撮ってくるんだった!どうして思い付かなかったの!と、中学生達は悔しがった。
中高生が大好きなお待ちかねの恋愛の話に至ると、少女達の目は煌めいた。
しかしグレンにとっては非現実的なものである意識が強く、自分のこととしてそれを考えられない。
好きな女性のタイプなど考えたこともなかった。
だから、それを正直に明かすしか答えが無い。
すると少女達はわかりやすくがっかりと残念そうな顔をした。
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