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Desert Oasis Vampire

主人が目覚めたと知らされたミセスディナを始めとする使用人達は、涙を浮かべて喜んだ。
フォードはずっとグレンの側を離れず、寝巻き一枚の肩にベージュのケープを掛けたり、お茶を出したりとあれこれ世話をした。

目覚めたばかりなので負担になる事は避けたかったが、グレンが寝ている間の事を話し始めると結局聞いてしまった。

「シャイン……?って、まさか……あの、シャインですか?」

驚いたのは、ただの夢だと決めつけず、主人の言葉を疑い無く受け入れた証だった。
そしてまたグレンがあの一室に囚われていた事に心を痛めた。

「シャインが連れ出してくれた。もう起きないと体かもたないからって」

かつて迎えに行ったように、今度も自分が行けたらよかったのに。と、フォードは悔しい思いを抱いた。

「最初に力が加わったのは胎児の時だって言ってた。それで守りが弱くなった。接触するためのドアができた」

つくられたドアが呪いだというなら、それを取り除く方法を見つけねばならない。

「シャインは『騙されないで』と言ってた。……悪魔の正体を暴かなければ」

まずは、例の金髪の少女だ。
騙されるなという言葉が、ドアをつくった悪魔とは別だという意味でも、グレンは少女の正体を暴く気でいた。
そうしなければ殺されるのはグレンなのだ。

せっかく戻ったのに、休息よりもう次の事を考える主人に、フォードは不安を覚えた。

「待ってください。目覚められたばかりなのに。今は何も考えないで、ゆっくり体を休めて。体力を戻すことを考えてください」

一旦飲み込んだように見せたが、フォードにはまだグレンがそれを考えているように見えた。


見舞いにやって来たローザとリサは、起きて医者に診られているグレンを目にして駆け寄った。

「グレン!起きたのね!?」
「グレン様ぁ〜っ。よかった…!」

リサは安堵して泣き出した。
すまなそうに眉を寄せ、薄く苦笑するのを見たら、ローザもリサもそれ以上何も言えなかった。


医師の許可が出たので、胃に優しいものから一口ずつ口にする。
それをじっと見詰められ、グレンはちらとフォードへ視線を送る。

「お二人とも。そんな近くで監視せずとも、グレン様は逃げませんから」

ローザは隣に座り、リサもソファーの下でひざまずいて見ていた。


食事を終えて一息つくと、グレンはローザとリサそれぞれへしっかり視線を止めて話した。

「二週間も眠ってたんだってね。その間、何度も見舞いに来てくれたって」

こくこくと頷いて聞きながら、ローザは悲しげに笑みをつくり、リサはまた涙ぐんだ。

「感謝しているよ。本当に、ありがとう」

礼を言われることなど考えてなかったから、気持ちのこもったやわらかな響きと、優しい眼差しが二人は嬉しかった。
ローザは照れ臭く、くすぐったいような気になり、リサはくらくらと目眩を感じそうなほど赤面した。
けれど次の瞬間。
二人の間をすり抜けた視線から温度が消え、声色からも感情がすっと無くなった。

「アイラ」

ローザは今回も憎々しい悪魔が現れたら怒りに任せて怒鳴り付けてやるつもりだったが、グレンの態度がそれを凍りつかせた。

一声。

静かに呼んだだけなのに、地の底から湧き出るような重く暗い怒りと、冷たく突き放すような残酷な響きがそこにあった。
主人の命令を待つ犬の様に、アイラはぴたりとそこから動かない。
それをひんやり見やり、グレンは気だるげに吐息を漏らした。

「見舞いに来てくれるのは嬉しいよ。けれどね。君は彼女達ほど純粋ではない」

アイラは口を開いたが、グレンが反論を許さなかった。

「わかってるよ。君は悪魔だしね。そういう者だってことは。けれど少しは、時と場合を考えてくれないと」

自分達の純粋な愛情を認めてくれたことを喜びながら、ローザとリサはこの悪魔が何をしでかしてグレンを怒らせたのかとハラハラして見守った。

「俺は自分の為に君を利用しようとしてるんだから、それくらい覚悟したつもりだ。心配してみせながら、自分の持ち物を見せびらかすみたいにわざと二人の前に現れるくらい。だろう?」

淡々と言い聞かせるような静かな口調が、逆に恐かった。
アイラは一切言い訳をせず、その場に片膝をついた。

「ごめん」

グレンは冷ややかに見やるだけで何も答えなかった。

「君の学校の生徒について聞きたいんだが」
「は、はいっ」

アイラを無視して聞かれて、リサはぴしっと背筋をのばした。

「俺が中学校に行った時、保健室に居合わせた金髪の女生徒のことは聞いているかな?」

緊張した表情がみるみる青くなる。

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あきゅろす。
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