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Desert Oasis Vampire

また、この部屋だ。
ずっと閉じ込められていた、この薄暗い部屋。

頭も視界もぼんやりしていて、これは夢だという認識があった。
床にぺたんと座って、部屋の奥に“出来た”扉を眺めている。


脚が短い小さなテーブルなのは、床にクッションを置いただけで座る為だ。
そうするとイスが要らない。
“病気のせいで”倒れてしまった時、ぶつかったら大変だからだそうだ。
同じ理由で他にも余計な物は無くなっていって、あっという間に殺風景になった。
フォードが来てからすぐにそうされてしまったのだ。

自分が倒れている間、記憶の無い内に、自分でも知らない自分が現れている。
もしや……。と、そう疑いはじめてから、それも辻褄が合うと気付いてしまった。
フォードが部屋から余計な物を排除したのは、凶器になる物を奪う為じゃないか?と。

倒れて目が覚めた時、体に傷が出来ている事がよくあった。
何処かにぶつけて出来たアザだけではない。
切り傷や引っ掻いた様な爪痕。
気を失って倒れただけでは切り傷なんて出来ないだろう。
苦しんでもがいた時に引っ掻いたという言い訳も切り傷ではきかない。

だから俺は自分が恐くて、それらを認めたくなかった。
堪えられる程なら傷が出来た事を黙っていたから、当然手当てもせず、結果、多くの傷は消えないで残ってしまった。
けれどそんな事より、病気だというフォードの言葉を信じた振りして、自分自身何とか思い込もうとした。

俺は病気だ。
自分を殺そうとするもう一人の自分なんて居ない、と。
俺は自分に怯えながら、自分の中の邪悪な者が出てこない事を願った。


部屋の奥の知らない扉。
そこから悪魔が入ってくるから、見張らなければならない。

邪悪な者がやって来る。


ベッドの中で目が覚めた。
頬に触れる枕のふわふわや、布団の重みや感触で、ここが現実なのだと徐々に思い出していく。

目をこすってまぶたを開けたら、現実の部屋がある。
足に触れる絨毯の感触も、カーテンを開けたら飛び込んでくる日射しに、揺れる緑。
確かに、現実を生きている。

悪魔がやって来るのを予感する夢なんて、縁起でもない。
水を飲みたくなって、寝巻きのまま部屋を出た。
が、目眩がして立っていられなくなった。
壁を支えにずるずるとへたりこんで、苦しくなる胸をおさえる。

どうか。
どうか来ないで。

意識が途切れるのが恐い。


「グレン様…!」

グレンを起こしに来たフォードが苦しそうに座り込んでいるグレンを発見し、駆け寄って肩を抱いて支えた。

「はぁ…っ、フォー…ド……」
「大丈夫ですか!?ソファーに横になりましょう」

支えてもらってソファーに移動すると、グレンは手をのばしてフォードのジャケットを掴んだ。

「フォード……。フォード、頼む。水はいいから、聞いて」

フォードを引き止めて、苦しそうに喘ぎながら。

「フォードごめん。フォードに、謝らなきゃならない事が……」
「いいんです。グレン様が謝らなければならない事なんて無い。グレン様は」
「聞いてフォード…っ。わかってた。本当は……本当はずっとわかってた……。フォードは優しいから、俺の為に黙ってたんだろ……?」

フォードはぐっと歯を食い縛り、否定の言葉を飲み込んだ。
しらばっくれるのも、今はとても酷に思えた。
グレンが気絶している間、邪悪で凶暴な何者かに支配されているのを、実は本人も気付いていたんだとフォードは知ってしまったから。

優しい嘘と言えば聞こえはいい。
両親に見放されたと思っているグレンに、これ以上傷付いてほしくなかったとはいえ。
嘘を重ね、騙して、ごまかし続けてきた。

「ずっと、そうだったらどうしようって……考えたら恐くて……。そんな訳ないってごまかしてた。フォードが言わないでくれてるから、甘えてた……」
「グレン様……」

フォードが騙していた事を責めるどころか、謝り、更には自分を責めようともしている。
何て健気で、可哀想な子だ。
初めて会ったあの幼い頃から、グレンの心は変わっていない。
もう平気だと強がってみせても、芯の方ではまだ孤独で、いつも何かに怯えた子供なのだ。

「ごめんね、フォード。ごめん。ごめんなさい…っ」

フォードは目の前のこの子供が愛しくなり、溢れる涙をそっと拭ってやると、ジャケットを掴む手を優しく包んだ。

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あきゅろす。
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