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Desert Oasis Vampire

この砂漠にはパワースポットと呼ばれる場所が点在しているとはいえ、都会からわざわざ療養に来るほどの病院も無いし、しかもヴァンパイア様が通っているのは街の外れにある病院とも言えぬ小さな診療所だ。
だから噂では不治の病で、もう治らないから親に見放されたんだろうとか、捨てられたんだろうと言われている。
執事や使用人達ばかりで、屋敷にはヴァンパイア様一人。
家族が彼を訪ねてきた気配は一切無い事から生まれた噂だ。

近頃よく街に現れるようになった美しいヴァンパイア様は、常に長身の男前な執事を伴っている。
それだけでも、中高生が夢中になるのには十分だった。
その悲しい境遇に同情する事で更にヴァンパイア様に熱中する中高生は、噂だけではおさまらない。

ヴァンパイア様が出没したと聞けば飛んでいって、熱狂的な高校生がカメラを構え、彼を隠し撮りした。
そしてその隠し撮りコレクションは中学校にも流れ、リサ達の元へもやって来る。

高校生の姉が居る友人が、そのコレクションに新作が出る度に回してくれるのだ。
焼き増しの代金さえ払えば手にも入るため、リサは毎回新作を注文していた。

執事とのツーショットをはじめ、黒いうさぎを飼った時も、カフェでパフェを食べたり、子供と触れ合ったり、パン屋でおまけをしてもらった時も。
教会から出てくるショットも買ったし、ペットショップに居るのも買った。


こうして元の生活に戻ると、グレン様のお屋敷で働き、グレン様と直接会話していたなんて信じられない。
それらはもちろん、グレン様に贈り物をした事も当然友人達には秘密だ。
ヴァンパイア様の本名もうっかり漏らしてしまわないように気をつけねばならない。

手に入れた新作のヴァンパイア様写真をロッカーにしまっていた時だ。

「リサって、みんなとはちょっと違うのね」

振り返ると、そこにはクレアが笑って立っていた。

「うん、そうね。変わり者だって言われてる」

ケラケラっと軽く笑いとばして、リサはそれを認めた。
中学生になっても少女趣味を堂々としていて、痛々しいのもわかっている。
が、クレアが言いたいのはそういう事ではなかった。

「ううん。リサは本当にお嬢様だし、やっぱり品があるじゃない?なのに嫉妬もされないし、むしろ人気者で。きっとその人柄が好かれてるのね」
「イヤだ。やめてよ、クレア。全然そんなんじゃないの。私は少し変な子だから、みんなが構ってくれてるだけよ」
「だけどヴァンパイア様への反応も、みんなとは違って見えたけど?」

リサはドキッとしたが、表情は笑顔のままキープした。

「そーお?」
「やっぱり育ちが違うから品があるのかしら。それとも……。本当は一人だけ抜けがけしてたりしてっ。だから余裕なの?」

一人で探りに来るほど、クレアもヴァンパイア様に夢中なのか。
リサが隠している事をクレアが知っているからなのか。
リサにはクレアの真意がわからなかった。
どちらにしろ軽く笑ってごまかすのは危険だと思い、リサは譲歩してギリギリ真実を話す事に決めた。

「あのね?みんなには内緒よ?みんなはヴァンパイア様のファンっていう気持ちかもしれないけど……。私は本当にヴァンパイア様が好きなの。ヴァンパイア様のことは何も知らないのにね。物語の中の王子様に恋してるみたいで、また夢を見てる少女趣味って笑われると思って……黙ってたの」
「そうだったの。でも、リサなら笑われたりしないわ。きっとリサらしいって言ってくれる」
「うん。でも、恥ずかしいから。黙っててね?」

リサは、クレアがこれで納得してくれたことを願った。


呪いといってもおまじない程度のものなのに、よく気づきましたね。と、フォードは感心していた。
そしてこれは恐らく本気で命を狙ったのではなく、ここまで入ってこれるのだというアピールかもしれない、と。

屋敷中を探して結局呪いが見つかったのは時計の中一つだけで、これにもグレンの通る場所、行動パターンを把握しているというメッセージがあるのでは。と怪しんだ。

体に影響を与える強い呪いも出来ると前回でわかっているし、これで油断が出来ないとわかった。
いつでも狙われているのだと、警戒せねばならない。

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あきゅろす。
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