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Desert Oasis Vampire
第十三話 信じられない事
両開きの重厚な扉を開いたら、玄関ホールが広がっている。
正面には幅の広い階段があり、踊り場には人の背丈ほどもある振り子時計が置いてある。
屋敷の各部屋に置かれている沢山の美術品と同じく価値のあるものかはわからないが、これも以前から置いてあったものの一つだ。

グレンがここを通るのは、月に一度健康診断を受けに行く時ぐらいで、あとはルイの為に動物病院やペットショップに行く時など、車を使って外出する時だ。
ちょっと外の空気を吸いたい時やルイの散歩などはテラスから出るのが普通で、頻繁に訪れることはなかった。
だから振り子時計がギシ……と軋む様な音がした時も、一瞥しただけで「古いからだろうな」と気にもとめず忘れてしまった。
次も、ミシッと木が割れる様な音がしたが、やはりすぐに忘れてしまった。
フォードも単純に時間を見ているだけだと認識していたし、それを見過ごしてしまった。

三度目にホールを通った時、グレンはとても嫌な視線を感じて足を止めた。

「グレン様?」

グレンの目は、真っ直ぐに階段の上の振り子時計に向けられていた。

「……いや。何でもない」

以前にもこんな事があった。
フォードはミセスディナに目配せしたが、ミセスディナの方も勘良く察していて、何も命令されずとも頷いて応えた。

グレンの帰宅後、ミセスディナはフォードに調べた結果を報告した。
中を開けて見ても何も異常は見つからなかったし、念のため時計を動かして裏も見たが同じく何もなかった。

以前グレンがホールで何か見たような様子だった時も、よからぬものがグレンに近付いてきた。
グレンは詳しく言わなかったが、今回もその前触れではと思うと放ってはおけない。
フォードやミセスディナにはわからなくても、狙われている本人にはわかる事があるのかもしれない。

「グレン様。ホールにある時計ですが、何か気になる事でも?」

それから間も無く、グレンはフォードやミセスディナ達とホールに居た。

振り子時計を開けると、グレンはいきなり手を突っ込んでフォード達をハラハラさせた。

「あ……」
「グレン様?大丈夫ですか?」

ビリッと紙が破ける様な音がした後、出したグレンの手には小さな紙片がつままれていた。

「これは……」

赤黒い、血と思われるもので魔方陣が書かれている。

「グレン様!放してくださいっ」

やはり前例があるだけに、皆すぐに呪いだと思った。
そしてフォードはグレンの手から紙片を奪い取ると、自分のポケットから液体の入った小瓶を取り出した。

「これは私が処分します。グレン様、手を」
「何?」
「聖水です」

フォードはグレンの出した両手に聖水を振りかけた。


部屋に戻ってから、グレンはフォードに金髪の少女の事を話した。

ホールで見た気がしたのも、森の中で見かけたのも、中学校で襲われた金髪の少女だった。
昔グレンを呪った悪魔と同じではないかもしれないが、恐らく邪悪なもので、グレンを狙っている。

もしかしたら使用人を使って呪わせたのもそうかもしれない。
そして今回も、恐らく。

「他にも無いか、屋敷の中を調べましょう」


風に揺れる、金色の長い髪。

少女は、同じ色の髪を人形の様に二つに結った少女趣味の変わり者を見つめた。
三つ編みを両側で束ねて垂らし、毛先は縦ロール。
お姫様に憧れる幼い子供の感性が、彼女にはいまだにあるらしい。

『ねぇ。あなたがアイリス?休学してたのよね?はじめまして。私、最近この街に越してきたの。クレアよ。ええ。よろしく、リサ。仲良くしましょ』

彼女はとても無邪気な少女だ。

『ヴァンパイア様?』

難しい病気を患って、都会から療養するためにこの街にやって来たお金持ち。
病気のせいで屋敷からこの街に出てくる事は滅多に無く、たまに車を見かけるくらいで、その姿を見られるのは更に貴重である。

ビスクドールの様に白くなめらかな美しい肌。
綺麗な顔立ち。
ミステリアスで影がある彼は、愛称をヴァンパイア様と言った。

常に日傘をさし、露出を避けた服装に手袋という格好もあって、中高生から発生したそれは、大人の間でも便利な呼び名として使われている。

長い間買い手が無く、幽霊屋敷と言われていた北の丘の上の屋敷を買ったのも、ヴァンパイアというダークな印象を強くするのを助けた。

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あきゅろす。
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