Desert Oasis Vampire 5 日が傾いて屋敷に戻ってから日がすっかり暮れても、メリーはママのお迎えを待ってるんだと言ってホールから動こうとしなかった。 一緒に部屋で待ってようと言っても、ならホールから見える食堂で座って待っていようと言っても聞かなかった。 「グレン様。グレン様はそろそろお部屋へ戻られた方が……」 「そうです。お体に障ります」 「メリーは私達が見てますので」 フォードもミセスディナ達も心配してくれているが、ここまで来たらメリーが帰るまで見届けたかった。 しかしさすがにずっと立っているのは辛い。 「メリー。あそこに座って、待っていよう?」 ホールの正面に位置する、幅の広い大きな階段。 メリーは沈んだ顔で、こくりと頷いた。 階段にちょこんと座って待つメリーの気持ちがわかる気がして、心が少し切なくなった。 「メリー。ママは、絶対来るよ」 「うん」 俺も、待っていたことがあったから。 両親が来てくれるのを。 「私、外を見てきます!」 メリーの叔母はずっと申し訳なさそうに謝っていて、もうすぐ来るはずだと言っていたが、待ちきれず外へ出ていった。 グレンがずっと待ち続けているから使用人達も帰らずにホールの隅で一緒に待っていたし、見えないところでもまだまだ帰らずに待っている者が居た。 フォードもミセスディナもそれを一切咎めず、グレンのそばで立ち続けて居た。 「メリー!」 「ママ!?」 バタン!と扉が開いて、メリーの叔母と飛び込んできた金髪の女性に、メリーは走って向かっていった。 「ああ、メリー。遅くなってごめんなさい」 メリーはわあわあ泣いて、ママにぎゅっと抱き締めてもらっていた。 よかった。 メリーにはママが来てくれた。 すっと立って近付くと、メリーのママと叔母は二人で何度も頭を下げた。 「申し訳ありません!まさかご主人様がお相手してくださっていたとは…!」 「本当にご迷惑を…!申し訳ありませんでした!」 「いいや」 穏やかな声色。 容貌に浮かぶ温かな微笑。 優雅な立ち居振る舞い。 メリーのママも、叔母も、そこに居た使用人達は皆グレンに釘付けになった。 「とても楽しかった。とても」 グレンはメリーを見て、にっこりと極上の笑みを浮かべた。 「遊んでくれてありがとう、メリー」 「うんっ」 そして再びメリーのママに。 「メリーはずっといい子でした。子供らしくて……羨ましい」 二人が帰ってしまうとグレンは階段に座り、手すりにくたっと寄りかかった。 目を閉じ、深い溜息をつく。 そのぐったりした様子にミセスディナをはじめ使用人達は慌てたが、フォードはふっと苦笑を浮かべた。 「無理をするからです」 「だって……」 子供の様に拗ねた声で、グレンは本音をこぼす。 「楽しかったから……。同じ年代の子供と遊んだことがなかった」 グレンは眉を寄せ、不思議そうにフォードに尋ねた。 「子供は……あんなに笑うものなのか?」 「ええ、まあ。メリーは明るい子ですが、子供は大概無邪気なものです」 「へぇ……」 感心と驚きが混じった返事。 「お疲れでしょう。体調もまだ完全ではないというのに……。今日もリゾットにしますか?」 普段通りのやり取りも、知らない使用人達にとっては新鮮だった。 「あれがいい。チーズの。それと野菜は要らない」 「ダ・メ・です。好き嫌いはよくないですよ」 意外とグレンが子供っぽいというのも、フォードが保護者っぽいというのも。 新たな発見だ。 「かわりに同じ栄養素のものを食べれば」 「屁理屈ですね」 バサッと切って捨てられたグレンは拗ねながらも、フォードに手を貸してくれと言わんばかりに両手をのばした。 フォードは何も言われなくても自然にそれに応え、主人を支えて部屋へ送っていった。 垣間見えた日常は新鮮で、微笑ましくもあったけれども、それだけに降りかかった呪いの酷さを、ミセスディナは感じていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |