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Desert Oasis Vampire

グレンはつい、反射的にフォードを見てしまった。
少し困った顔をしたが、グレンは正直に話す事にした。

「俺は……泣かなかった……。泣いたって誰にも届かなかったから、泣くのを諦めた」
「泣かないの?お兄ちゃんはひとりぼっちだったの?」
「いいや。一人だけ。フォードが来てくれたから……。フォードになら届くから、フォードの前では泣く」

メリーは、じっとグレンを見つめた。

「メリーは愛されてるから、きっとママは叱ってくれるし、優しくしてもくれるんだろう」
「うんっ。ママがつくってくれるクッキー好き。おやすみの前に絵本をよんでくれるし、『あいしてる』っておやすみのキスしてくれる」

メリーはもうすっかり泣き止んでいた。

「グレン様。ケーキを用意したので、メリーと一緒にどうですか?」
「ああ」
「わーい!ケーキ!」


チョコレートケーキの横にはホイップクリームが絞ってあって、そこにはイチゴが乗っていた。
メリーは真っ先にイチゴを食べてしまうと、キラキラした目でグレンの皿を見つめた。

まだ手をつけていなかったグレンがフォークでイチゴを刺すと、メリーは「あぁ!」と声を上げた。
それが面白いと感じたグレンはにやりと笑うと、わざと意地悪をしてイチゴを自分の口元に運ぶ。

「あ〜…!」

グレンがフォークを口から離すとホッとし、くるくる回すとそれを目で追う。

「イチゴ好き?」
「うん!」

くれるのかと期待してメリーの笑顔が溢れる。
が、グレンがすぐにあげないと、くれないの?という顔でイチゴとグレンの顔を交互に見た。

素直な反応が可笑しくてグレンがくすくす笑うと、メリーはぷぅっと頬をふくらませて怒った。

「わるい子!」
「わかったよ。はい、あーん」

しかし一度失った信頼は大きいようで、メリーは疑わしい目で見ている。

「大丈夫。今度はちゃんとあげるよ」

イチゴをもらったメリーは幸せそうに笑った。


お茶休憩をしてメリーの元気が復活すると、今度はいくら何でも聞けないお願いを言い出した。

「ねぇ!外であそぼう?」

さすがに使用人達も戸惑い、互いに顔を見合わせた。

「メリー。今日はあまり運動出来ないから、散歩なら少しぐらいは」
「グレン様」

グレンが行く気でいる事に驚き、フォードも思わず口を出してしまった。

「少しだけ。フォード。無理はしないから」

フォードは少し迷い、使用人にグレンの手袋と日傘を持ってくるように言った。

待っている間、グレンは冗談っぽくだがメリーにきちんと説明した。

「ヴァンパイアだと言っただろ?日に当たれないから、手袋と傘が要る」

信じているのかいないのか、メリーは面白そうに笑った。

「十字架は?こわい?」
「いいや、平気だ。部屋に置いてるぐらいね。でもニンニクは食べない」
「ほんと!?」
「ああ。口が臭くなるからね」

そんな冗談を言って、二人は笑い合った。
フォードや使用人達も、聞きながら微笑んだ。


グレンとメリーが外へ出ていくと、ミセスディナはキッと周囲へ鋭い視線をはしらせた。
食堂に来てからずっと、使用人達がそこここで隠れて見ていたからだ。
彼女達がそわそわしている理由もわかっている。

「まぁ、いいでしょう」

フォードが許可を出し、ミセスディナがしぶしぶ合図を出すと、使用人達が出てきて窓にはりついた。
普段から使用人としての誇りを持って自制しているが、グレンがこんなに長時間見られる場所に居る事が無いから興奮していた。
それでもずっと騒がずに隠れていたし、今も大きな声は出さずに囁き合うのにとどめている。

グレンの麗しい眉目に見惚れ、一挙一動に優しさを感じ、尚更主人を誇らしく思う。
主人を讚美する囁きを聞いて、使用人らしからぬ振る舞いだと苛立っていたミセスディナも怒りを抑えた。


グレンは噴水の縁に座って息をついた。
メリーもそこへよじ上って噴水の中を覗き込んでいる。

「危ないよ、メリー」
「だいじょーぶー!」
「メリー」

メリーは噴水の縁を走ってぐるりと回ってくると、面白がって笑った。
手をのばすとまた走って逃げる。

「こら、メリー」

傘を上げて見たら、メリーがぽすんっ、と突っ込んできた。
今度こそ捕まえようとしたのに、メリーはきゃあきゃあと笑いながら逃げてしまった。
どうやらこの遊びが面白くなってしまったらしい。

反対側から来たメリーは笑いながら、捕まらないように離れている。
子供というのは、こんな事でも遊びに変えて楽しんでしまうのか。
何だかこちらまで可笑しくなってきて、思わず笑ってしまった。

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