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Desert Oasis Vampire

「メリー」

グレンが膝をつくと使用人達は皆ハッとし、狼狽えて立ち尽くすしかなかった。
ぐすぐす泣いているメリーの前にひざまずき、グレンは優しく話し掛けた。

「メリーは悪い子じゃない」
「でも…っ」
「子供が遊びたいと思うのは当然の事だ」

きゅっ、と。
ビスクドールの相貌は、悲しげに眉を寄せた。

「お兄ちゃん病気なのに…っ」

それでも自分を責めるメリーに首を振って、穏やかな口調で続ける。

「メリーと遊びたくて俺が勝手に出てきてしまったんだ。悪い子なのはお兄ちゃんなんだよ」

グレンがハンカチを取り出すと、メリーの叔母はおろおろと慌てた。
我が姪が迷惑をかけた上に優しくかばってもくれて、その上更にご自分のハンカチで涙を拭ってくださっている。
使用人達は、刺繍のある特別なハンカチで拭うその仕草に釘付けになった。


ミセスディナはこの騒ぎをフォードに知らせ、駆けつけたフォードは集まっている使用人の数に驚いた。
ハンナとミカルから先ほどのメリーとのやり取りを聞き、使用人達をかき分けて入っていくと、やはり一番に気になるのはグレンの体調だった。

「グレン様、体調は?」
「フォード。大丈夫だよ」

病み上がりなのに。
フォードは強く言って部屋へ戻ってほしかったが、メリーを見たら厳しく言えなかった。

「もう少し、メリーと遊んでいいかな?」
「グレン様…!」

本当は反対だが、グレンがそこまでするのには理由があるのだろう。
幼い子供に自分を重ね、助けてあげたくなったのかもしれない。
そう考え、フォードは頷いた。

「わかりました。そのかわり、私と使用人も数名そばに控えてますので、決してご無理をなさらずに」

それを聞くとグレンは肩をすくめて、メリーに言った。

「ほらね。お兄ちゃんが悪い子だから、皆見張ってるんだ」
「悪い子?」
「そう。俺はすぐ逃げて居なくなるからね」

そう言いながらチラリとグレンが見たから、フォードは思わずくすっと笑ってしまった。
メリーをかばって悪者になった主人に使用人達も心が温かくなり、微笑ましく見守った。

「さ、行こう。次は何処に行く?」
「あっちー!」

グレンは、また元気よく走り出したメリーの後を追った。


屋敷を歩き回る事などないグレンは、メリーと一緒に探検を楽しんでいた。

多くの使わない部屋には、家具だけでなく美術品も飾られていた。
屋敷の以前の所有者が集めたものだろうが、誰かに見られる事も無いまま置いておくのはもったいないと思ってしまう。

きょろきょろ見ながら歩いていたメリーが壁際の花台にぶつかってしまい、乗っている花瓶がぐらりと傾いた。
フォード達があっと声を上げ、グレンは咄嗟にメリーを胸に抱き込んだ。
すかさず花瓶も左手で口を掴み、何とか落下を免れた。

顔を上げたメリーは、びっくりして目を丸くしていた。

「気をつけて」
「ありがとう」

フォードは黙って近寄り、グレンの手から花瓶を受け取って花台に置き直した。

食堂に来てもメリーはまた走り回っていたが、グレンは疲れてイスに座った。
深い溜息をつくと、見計らったように使用人がお茶を運んできた。

「子供は元気だ」

お茶をいれるフォードはにこりと笑ってそれを聞いた。

自分も呪われなければ、こんな無邪気な子供だったのだろうか?と、グレンはメリーを見ながら思った。
その時、急にびたん!と転んでしまったメリーが泣き出した。
使用人が寄っていこうとしたが、グレン動くのを見てやめた。

泣きじゃくるメリーを抱き起こすと、グレンは黙って服を叩いて整えてやった。
子供のあやし方がわからないグレンは、席まで連れてって膝に抱っこしたが、叱ったりなだめすかしたりはしなかった。
ただ静かに、穏やかな声で語りかけた。

「泣くのは、いい事だ」
「でもママは、泣き虫な子はいけないって。つよくなれないって言うの」

メリーは泣きながら答えた。
グレンはそれに首を振って、静かに続けた。

「子供は口でうまく説明出来ないから、大人に気付いてもらえるように泣くんだよ。自分じゃ出来ないから、大人に心配してもらって傷を治してもらうんだ」

メリーは、グレンの言う事を真剣に聞いていた。

「子供は大人に守られるものだ」
「お兄ちゃんもそうだった?」

思わず、答えに詰まった。

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あきゅろす。
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